2025年2月、新製品MiSeq i100シリーズのMiSeq i100 Plusが日本でも販売開始となりました。MiSeq i100シリーズでは、2011年発売のMiSeqで採用されたSBSシステムに大きく改良を加え、「ランセットアップの簡略化」、「ランの高速化」、「メンテナンスの簡易化」を実現しています。結果として、MiSeq 2×300 サイクルラン(v3試薬使用)と同じデータ量のランを、MiSeq i100シリーズ(25M試薬使用)では約15時間という短時間で完了できます(図1)。
本ページでは、MiSeq i100シリーズの特長、技術改良点や使用上のポイントなどを、MiSeqとの比較を中心にご案内します。
MiSeq i100シリーズで使用するラン試薬は、ウェットカートリッジとドライカートリッジの2つにより構成(図2)されます。
どちらも15~30℃での保管・輸送となるので、MiSeqでは必須だったランの実施に伴う試薬融解の必要がなくなり、速やかにランを開始することができます。そして、MiSeqフローセルにあたる消耗品は、MiSeq i100シリーズではドライカートリッジとなり、フローセル自体の洗浄の必要もありません。*1 さらにライブラリー変性のために最適な試薬がウェットカートリッジに同梱されているので、変性のためのNaOH試薬を別途準備することが不要となります。*2 MiSeq i100での、主なライブラリーロード濃度はこちらのページ、希釈手順についてはMiSeq i100 Series Product Documentationをご参照ください。
手軽になった、MiSeq i100シリーズのランセットアップの一連の手順(ラン作成方法などを含む)は、こちらの動画からご覧いただけます。
また、MiSeq i100シリーズのラン試薬が常温保管であることに関連して、ラン試薬を冷凍庫や冷蔵庫に保管する必要がなくなったため、これらのスペースを有効活用できるようになりました。試薬の輸送についても常温輸送となるのでドライアイスなどの輸送資材が不要となり、試薬輸送時の必要資材が大幅に削減されています(図3)。加えて、MiSeq i100シリーズの装置本体と、ラン試薬を同室に保管することが可能ですので、ラン試薬在庫の管理が容易になります。
以上のように、技術革新によって実現した常温保管のラン試薬は、シーケンス実験開始時のハードルを下げるだけでなく、管理上でも大きなメリットをもたらします。
MiSeq i100シリーズは従来のMiSeqと比べて、ラン時間が大幅に短縮しました。驚くべきことに、MiSeqで2×300 サイクルランにかかる時間が約56時間であるのに対し、MiSeq i100シリーズは約15時間となります。
シーケンスラン時間の短縮には、改良されたPolymeraseを利用するXLEAP-SBSケミストリーが大きく貢献しています(図4)。またTwo-channel方式やナノウェル内でクラスターを形成させるパターン化フローセル、およびCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサーによるクラスター情報取得システムも併せて採用し、効率の良い化学反応とデータ取得を追求した結果、MiSeq i100では2×300 サイクルランを含めたすべてのランが24時間以内に完了するレベルでの、シーケンスラン高速化に成功しました。
従来のMiSeqではラン後のPost Run Wash、30日ごとのMaintenance Washなど、装置のメンテナンスのために流路系のWashが必要でしたが、MiSeq i100シリーズではWashそのものが不要となります。
これは、MiSeq i100シリーズでは廃液用のラインを除いた流路系がラン試薬内に組み込まれているためです。装置内に洗浄が必要な流路系が存在しないことからランごとの流路系メンテナンスの必要がなくなり、またラン間のサンプルキャリーオーバーを完全に排除することが可能となっています。
MiSeq i100シリーズにおける装置のメンテナンス内容は、廃液ボトル内の廃液を適宜捨てていただくことと、 半年に一度のエアーフィルター交換を行っていただくこと、この2点となります(図5)。
XLEAP-SBSケミストリーとCMOSによるクラスター情報取得システムの採用により、ラン時間が短縮されるだけではなく、ランの品質も向上しています。MiSeq とMiSeq i100で2×300 サイクルランのクオリティスコア(%>=Q30)の変化について比較したところ、MiSeqでは各リードの終盤でクオリティスコアが落ち込むのに対し、MiSeq i100では高い水準のクオリティスコアが維持されました(図6)。
イルミナの保証する2×300 サイクルランのスペック(PhiXラン)でも、MiSeq v3では、「Q30以上の塩基が70%超」でありましたが、MiSeq i100では「Q30以上の塩基が85%以上」となっております。MiSeq i100シリーズの仕様値の詳細につきましては、こちらのページをご参照ください。
MiSeq i100シリーズはMiSeq i100*4 *5とMiSeq i100 Plusという2つの機種から構成されております。この機種間の違いは、対応するラン試薬が異なる、という点のみであり、MiSeq i100は5M、25Mのラン試薬に対応し、MiSeq i100 Plusでは5M、25Mに加え50M、100Mのラン試薬*4にも対応します。
これらの2機種とMiSeqの各ラン試薬のデータ量範囲を比較すると(図7)、MiSeq i100 シリーズでは従来のMiSeqで実施されてきたアプリケーションをほとんどそのまま踏襲することが可能です。またMiSeq i100 Plusでは取得可能なデータ量が増えたことから、これまでの実験のランサンプル数を増加する、新たなアプリケーションを実施する、などが可能となっています。
(MiSeq i100で実施可能な主要アプリケーションにつきましては、こちらのページの中段をご参照ください)
MiSeq i100シリーズでは、高速かつ高精度な二次解析を可能とするDRAGENが装置に予め搭載されています。(MiSeq i100シリーズのOSはLinuxに変更となったため、従来のWindows OS装置にインストールされている二次解析ソフトウェア、MiSeq ReporterおよびLocal Run Managerは搭載されておりません。)そのため、装置をネットワークに接続しなくても*6 、ランから二次解析までを装置上でスムーズかつ高速に実施することが可能となっています。
本ページでは、MiSeq i100シリーズの特長、主に前身の機種であるMiSeqから大きく変化した点についてご紹介しました。イルミナ社装置の代名詞でもあるMiSeqは、2×300サイクルの比較的長いシーケンス長にも対応するシーケンサーとして、発売から約15年にわたって皆様に長く愛されてきました。使用時の手間とラン時間を大きく削減し、皆様により愛される装置となるよう、イルミナシーケンステクノロジーの粋を集めたMiSeq i100シリーズについて、ご興味がありましたらお気軽にイルミナ株式会社までご連絡ください。
*1 *2: ドライカートリッジおよびウェットカートリッジは、アルミ包装開梱から4時間以内、専用試薬で変性済みのライブラリーは氷上または4℃で6時間以内にご使用ください。詳しくはこちらのページご参照ください。
*3: 微生物由来全ゲノムライブラリーの2×300サイクルラン結果(本データは開発中のものとなります)。MiSeqはv3試薬を使用、MiSeq i100 Plusは25M試薬を使用。
*4: MiSeq i100および50M、100Mのラン試薬は2025年に発売予定。
*5: MiSeq i100は、MiSeq i100 Plusシステムへのアップグレードはできません。
*6: ネットワークドライブの他、USB接続外部ドライブ上に出力フォルダを設定できます。USB接続外部ドライブについてはこちらのページをご参照ください。
*参考ページ (1): MiSeq i100製品紹介ページ
*参考ページ (2): MiSeq i100 Product documentation
*参考ページ (3): MiSeq i100仕様値ページ
*参考ページ (4): [Knowledge]MiSeq i100ページ
上記製品の使用目的は研究に限定されます。
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