2026年7月28日
4つのハイライト
- Dr. Annette Kim率いるラボは、より大規模なパネル検査や全ゲノムシーケンスへの移行を進め、従来の「ギャップを埋めるための検査」から脱却しました
- 検査を集約することで、コスト効率を高めるとともに、より短時間で幅広いインサイトを得られるようになりました
- ワークフローの合理化と自動化により、スタッフはハンズオンタイムを削減しながら迅速に包括的な結果を得られるようになり、検査件数の増加に対応しつつ、より付加価値の高い業務に注力できるようになりました
- 組織内で検査を実施する体制を構築し、サンプルおよびデータ管理の改善が実現しました
2023年にAnnette S. Kim, MD, PhDがミシガン大学に着任したとき、分子病理学ラボでは、専門知識と綿密な運用、そして多くの人的努力によって複雑な検査体制が支えられていました。これは、多くの高パフォーマンスの学術医療センターに共通する状況でもありました。
ラボの生殖系列解析ワークフローは、エクソーム(ターゲット)パネルを中心に構築されていました。この方法は長年にわたり安定した成果を上げてきたものの、労力を要し、拡張性にも限界がありました。また、研究上の疑問に十分に答えられないケースも増えていました。
当時、Michigan Medicineでは、エクソーム解析や全ゲノム解析のためにサンプルを外部機関へ送付していましたが、これは理想的な体制ではありませんでした。
「研究を重要な使命の一つとする当部門にとって、検査を外部委託することは、本来Michigan Medicineの中で蓄積・活用すべきデータや専門知識が分散してしまうことを意味します」と、ミシガン大学の診断遺伝学・ゲノミクス部門ディレクターであるKim博士は語ります。「シーケンスを内製化することで、こうしたデータを組織内で一元管理できるようになります。また、解釈や解析の専門知識をラボが蓄積していくことで、研究の優先事項が変化した際にも継続的な再解析を行える基盤を構築できます。」
Kim博士とそのチームは、エクソームシーケンスへ移行する案、シーケンスは外部委託しつつ解釈は組織内で行う案、あるいは全ゲノムシーケンスワークフローを院内で構築する案など、複数の選択肢を検討しました。そして最終的に、最も大胆な選択肢を採用しました。
このアプローチを選択したことで、ラボは既製のソリューションを導入するだけでは済まず、周辺インフラの多くを自ら設計・構築する必要が出てきました。これには、大規模運用に対応できるリキッドハンドラーの構築、インフォマティクスおよび解析ワークフローの整備、さらにはバリアントデータの保存および解釈方法の再設計が含まれていました。
「外部委託を選ぶ理由はありませんでした。」とKim博士は語ります。「段階的な検証を行う理由もありませんでした。私たちは迅速に生殖系列解析へ移行し、全ゲノムシーケンスを基盤とした単一の検査から、エクソームスライスパネル、エクソーム、あるいはゲノム解析の結果を報告できる体制を実現したのです。」
この取り組みは、単なるテクノロジーのアップグレードではなく、ラボの運営モデルそのものを再設計するプロジェクトとなりました。
移行前のターゲットパネル検査のワークフローでは、ウェットベンチ作業に2日間を要し、ランあたり約16~20時間の作業負荷(フルタイム従業員の勤務時間換算)が発生していました。「作業は肉体的な負担も大きく、休憩を取る時間はほとんどありませんでした」とKim博士は振り返ります。また、ターンアラウンドタイムも長くかかっていました。キットは一度に8サンプルしか処理できず、検査量が増えるにつれてボトルネックが生じ、複数の技術者を配置しなければなりませんでした。
シーケンスにはさらに30時間を要し、それに加えて、手動で開始しなければならなかったマッピングや解析パイプラインの実行にも約1日かかっていました。プラットフォームの運用末期には一部自動化が導入されたものの、依然として担当者による操作が必要でした。
もうひとつの課題はカバレッジでした。Michigan Medicineのエクソームスライスパネルに含まれる遺伝子の中には、このキットではまったくカバーできないものがありました。また、技術的には検出可能でもカバレッジが不十分な領域もあり、パネルの大部分が200× の深度を達成していても、10× 未満となることがありました。これは増幅ベースの手法でよく見られる現象です。こうしたギャップを補うため、追加の検査が必要でした。パネルやイントロン領域のカバレッジ要件にもよりますが、約43%のランでサンガーシーケンスによる補完解析が必要でした。また、特定のターゲット領域のカバレッジを改善するために、標準添加プローブも設計していましたが、その結果、アッセイコストも大幅に増加しました。
「標準添加プローブとサンガーシーケンスを組み合わせて補完していましたが、サンガーシーケンスによる補完はアッセイ全体に多くの時間を追加し、運用面でも非常に手間がかかりました」とKim博士は述べています。
公表していた4週間のターンアラウンドタイムは達成できていたものの、ほとんど余裕はありませんでした。再解析や広範なサンガーシーケンスによる補完が必要なケースでは、さらに時間を要することもありました。
一方、全ゲノムシーケンスは、包括的な単一のアッセイによって、こうした断片的な検査の必要性を減らし、複数のアプリケーションに活用できるデータ基盤を提供するという新たなアプローチをもたらしました。従来のように、目的別にターゲットワークフローを維持するのではなく、まずゲノム全体をシーケンスし、その後、必要なもの(エクソームスライス、より大きなパネル、エクソーム、または最終的にゲノム)の解析を実施できるようになりました。
Kim博士は、これは「ラボの将来性を確保するためのアプローチ」であると言います。
全ゲノムシーケンスは「技術的に最も包括的なプラットフォーム」であると同時に、「もっともシンプルなワークフロー」でもありました。また、ゲノムの関連領域が従来のコード領域を超えて拡大し続ける中でも、ラボが柔軟に対応できる基盤にもなりました。
運用面では、この移行を実現するために綿密な計画が必要でした。Michigan Medicineは、Michigan Genomics Initiativeと密接に連携し、研究向けシーケンスプログラムと並行して、臨床全ゲノムシーケンスを立ち上げました。この連携により、大規模なリポジトリに保管されていた約10万のDNAサンプルを活用して、十分なサンプル数を確保できました。こうして、当初は1万ゲノム規模のパイロットプロジェクトとして、研究サンプルと臨床サンプルを同時にシーケンスする体制が構築されました。
十分なサンプル数の確保は、重要な意味を持ちます。これによりラボは、サンプルの受付、バッチ処理、自動化、コスト構造を従来とは異なる視点で設計できるようになりました。研究用DNAはまとめて受け付ける一方で、臨床サンプルは個別に受付・抽出し、その後両者のタスクリストを単一のランリストへ統合するプロセスを構築しました。さらに、スケーラビリティと再現性を確保するためのリキッドハンドラーや、研究用と臨床用のデータをそれぞれ別のクラウド環境へ振り分ける自動データ処理システムも整備しました。
また、インフォマティクス基盤にも大規模な投資を行いました。既存のバリアントデータベースを三次解析環境へ移行し、クラウドベースのワークフローは、パイプラインの起動を手動で行うことなく、二次解析から三次解析までを自動的に実行できるよう構築されました。
Kim博士は、「将来的な拡張性を見据えることが重要でした」と語ります。「そのため、技術面でもインフォマティクス面でも、可能な限り自動化を取り入れました。」
こうした取り組みによる効率向上は顕著でした。Kim博士によると、全ゲノムシーケンスワークフローでは、DNA抽出やシーケンサーへのローディングを含めても、必要な作業時間は約8~10時間です。これは従来のアッセイにおけるハンズオンタイムの半分以下に相当します。また、PCRフリーのライブラリー調製は、従来のエクソームワークフローよりもシンプルで、より均一なシーケンスカバレッジを実現します。その結果、標準添加プローブやサンガーシーケンスによる補完といった複雑な対応策への依存を減らすことができました。
このシンプルなワークフローは、実際の成果にもつながっています。Kim博士によると、増幅バイアスがなく、GC含量の高い領域(ヌクレオチドのグアニン(G)とシトシン(C)の割合が高いDNA領域)の影響も受けにくいため、より均一なシーケンスカバレッジが得られるようになりました。また、転座や逆位、コピー数変化といった複雑な構造バリアントや、ノンコーディング領域のバリアントなど、エクソームベースのパネルでは見逃される可能性のある重要な変異も検出できます。実際、このアッセイの導入後には、これまでは検出できなかった可能性のある、ある遺伝子の3’UTR領域に存在する病原性バリアントが同定されました。
導入後の検査数も注目に値します。昨年8月に全ゲノムシーケンスの運用を開始して以来、同ラボはMichigan Genomics Initiative(MGI)と連携して、すでに約7,000ゲノムをシーケンスしています。現在は、年間1万ゲノムという当初の目標の達成に向けて順調に進んでいます。ターンアラウンドタイムも改善しました。公表している4週間というターンアラウンドタイムはまだ変更していませんが、Kim博士によると、現在はこの目標を十分な余裕をもって達成できています。また、MGIが所有する大量のサンプルとイルミナとのパートナーシップを活用することで、シーケンスコストも従来のターゲットパネルと比べて大幅に削減されました。このコストには、試薬費、消耗品費、および技術者の作業時間が含まれています。
スタッフにとって、この移行は安心感と同時に不安をもたらすものでした。ランあたり16~20時間を要していたワークフローが、突然8~10時間で完了するようになれば、その先に何が待っているのか気になるのは当然です。しかしチームはその課題に正面から向き合い、効率化によって生まれた余力はスタッフの役割を縮小するのではなく、むしろ拡大するものだと伝えたと、Kim博士は述べています。
現在、その時間は新たな検証、新技術の導入、そしてより重要性の高い業務に充てられています。また、インフォマティクスの自動化によって、パイプラインの手動起動やバリアント表示に関わる作業も削減されました。ラボ運営の拡大に伴い、リーダーシップ、インフォマティクス部門のリエゾン、スタッフ、プロジェクトマネジメントを含むインフォマティクスチームも成長を続けており、現在はラボチームと連携しながら拡大するゲノムオペレーションを支えています。
その結果、ラボは単に処理速度が向上しただけでなく、組織としての能力も高まりました。技術者は、反復的で身体的負担の大きい作業に費やす時間が減り、次世代のワークフローや新たな取り組みの構築に、より深く関われるようになりました。またKim博士は、人材定着の面でも効果を実感しているといいます。技術者の離職が業務の遅延や専門知識の喪失につながり得る分野において、仕事に対する満足度の向上は実務上も大きな価値をもたらしています。
「もう一つの利点は、ターンアラウンドタイム(TAT)へのプレッシャーによって生じる技術者のストレスが軽減されたことですが、これは定量化するのが難しい効果です」とKim博士は述べています。また、「新しく刺激的な取り組み」に携わる機会を提供することで、キャリア形成や人材定着の向上にもつながると付け加えています。
学術医療センターにとって、Michigan Medicineの経験は、全ゲノムシーケンスが単なる検査手法以上のものになり得ることを示しています。それは、分断されたワークフローの統合、オペレーションの拡張、外部委託検査への依存の低減、そしてより適応力の高い人材の育成を支えるインフラストラクチャとして機能するということです。
Kim博士が他の医療機関に勧めるのは、実践的なアプローチです。まず検査ボリュームを把握すること。次に、適切なパートナーシップを構築すること。また、インフォマティクスの重要性を過小評価してはならないと強調します。PCRフリーの全ゲノムライブラリー調製には、シンプルで堅牢なリキッドハンドラーで十分な場合もありますが、Kim博士によれば、どの機器にもそれぞれ「個性」と「癖」があります。そのためラボでは、リキッドハンドラーを深く理解し、最適化できる専門人材の必要性を実感したといいます。
さらに大きな教訓は、分子病理学の未来は単により多くのデータを生み出すことではない、ということです。重要なのは、そのデータを持続的な能力へと変換できるシステムを構築することです。
Michigan Medicineにとってそれは、パネル検査や補完検査、手作業による対応の積み重ねから脱却し、単一の全ゲノムシーケンス基盤へ移行することを意味しました。その成果は、より迅速なワークフロー、より広範な解析能力、運用の複雑さの低減、そして成長の機会が広がったラボスタッフという形で現れています。そして何より、研究を推進するための、より強固で再利用可能な基盤を手に入れたのです。


