Customer Interview

NGSにより明らかになりつつある微生物の不思議な世界

研究者たちは、人間の健康、疾患、および微生物の進化をさらに深く理解するために微生物のゲノムを調べています。

Alt Name

NGSにより明らかになりつつある微生物の不思議な世界

はじめに

人体には目に見える以上のものがあります。私たちの体の細胞ではなく微生物の細胞が何兆個も含まれているのです。研究者たちは、これらの微生物が人間の健康や疾患において重要な役割を果たしていることを発見し始めています。しかし、人体だけに微生物が生息するわけではありません。微生物は文字通りそこら中にいます。私たちの腸、家、海、そして土壌などに生息しています。この広大な微生物の世界は長い間、過小評価されていました。科学者たちは今、次世代シーケンス(NGS)の力を借りて、この計り知れないミクロの世界を徹底的に調査しています。

これがPhilip Hugenholtz博士(PhD)の研究の中心です。博士はAustralian Centre for Ecogenomics(ACE)のディレクターおよびクイーンズランド大学化学・分子生物学部の教授であり、微生物ゲノミクス会社であるMicrobaの共同設立者です。博士は、クイーンズランド大学での研究を通して、私たちの体内と環境中に存在している「微生物ダークマター」の解明を目指しています。NGSにより、博士とチームは微生物系統樹を分類することができました。博士が設立したMicrobaは、人間の腸内マイクロバイオーム(微生物叢)を迅速かつ精確に解析するために、NovaSeq 6000 システムでのショットガンメタゲノムシーケンスを用いてその取り組みを拡大しています。詳細な微生物ゲノムデータにより、Microbaの顧客は自身の体と健康についてより深く理解し、腸内環境の経時的な変化を追跡することができます。マイクロバイオーム検査はまだ新しいものですが、博士は個別化マイクロバイオーム検査がいつか近いうちに日常的医療の一部となり、「血液検査のように年に一度実施されるものになるかもしれない」と考えています。

iCommunityは、遺伝子シーケンステクノロジーと微生物学における進歩、微生物系統樹、Microba、およびヒトのマイクロバイオームに関する研究、さらにメタゲノム研究の将来についてHugenholtz博士にお話を伺いました。

 

 

 

変更テキストはここから
Philip Hugenholtz博士(PhD)は、Australian Centre for Ecogenomics(ACE)のディレクターおよびクイーンズランド大学化学・分子生物学部の教授であり、Microbaの共同設立者です。

 

 

 

質問:先生はなぜ微生物学を専攻することにしたのですか?

Phil Hugenholtz(以下、PH):私が小さかった頃、湖の生物を顕微鏡で観察するプロジェクトを行いました。湖水の堆積物の中に非常に多くの生命体がうごめいているのを見ることができて非常に驚いたことを覚えています。私は尺度という考えを非常に面白いと思いました。尺度をいくぶん拡大あるいは縮小しただけで、まったく違う世界がありました。

質問:先生の研究の焦点を教えてください。

PH:私の研究は、微生物群を培養せずに調べる方法を中心としています。歴史的に、ほとんどの微生物学は微生物を寒天プレートや液体培地上で増殖させることに依存しています。しかしこれは、生物をそのゲノムシーケンスで表すことができるようになった1980年代中期から後期に変わらざるを得なくなりました。これが生物学における大きなターニングポイントだったのです。私たちは莫大な数の生物のほとんどに気付いていませんでした。シーケンスのおかげで、調べている微生物を同定することができるようになり、生物がどのように異なっているかを理解できるようになりました。

質問:過去20年間で細菌同定方法やツールはどのように変化しましたか?

PH:1970年代初め、シーケンステクノロジーはまだ初期段階にあり、非常に大きな挑戦でした。研究者たちはリボソームのサブユニット16S rRNAをターゲットにしました。その配列を使って生物を相互に関連付けることができたからです。その長さはわずか1,500塩基対です。現在の基準では、シーケンスするには取るに足らない量のDNAです。しかし、1970年代では非常に大きな仕事であり、莫大なコストと莫大な時間がかかりました。これらの分子をシーケンスし、お互いの配列と比較することで、生物がお互いにどの程度関連しているかを客観的に判断することができました。

「未培養生物である場合、新しい生物であるかどうかを16S rRNAから知ることができます。全ゲノムをシーケンスすれば、その生物が持つその他すべての遺伝子を調べることができます。そのおかげで、経路を調べ、微生物の潜在能力を推測することができます。」

質問:ショットガンメタゲノムシーケンスはなぜ16S rRNAシーケンスよりも有用なのですか?

PH:16S rRNAだと、シーケンスするのは1つの遺伝子です。ショットガンメタゲノムだと、全ゲノムを高解像度でシーケンスできます。未培養生物である場合、新しい生物であるかどうかを16S rRNAから知ることができます。全ゲノムをシーケンスすれば、その生物を単離していなくても、その生物が持つその他すべての遺伝子を調べることができます。そのおかげで、経路を調べて、微生物の潜在能力を推測することができます。」好気性なのか?光合成遺伝子を持つのか?硫黄呼吸ができるのか?その遺伝情報から生物がどういったことをできるのかを推測することができます。また、さらに詳細な進化系統樹を作成することもできます。

質問:NGSテクノロジーの発達により先生の研究はどのように前進しましたか?

PH:NGSは私の研究に大きな変化をもたらしました。昔のシーケンステクノロジーは高価で、何が起こっているのかを限定的にしか見ることができませんでした。NGSのおかげで、生物の遺伝情報を生物群内で解析し、より複雑な環境からゲノム配列を取得することができます。私たちは、シーケンスを使用して生態系から何百ものゲノムを得ることができるという、微生物学や生物学において素晴らしい時代にいるのです。

質問:ハイスループットショットガンメタゲノムシーケンスを実施するためにNGSの使用を開始したのはいつですか?

PH:私は、ショットガンシーケンスを微生物群の研究に先駆けて使用した2つのラボに所属できて幸運でした。2001年にカリフォルニア大学バークレー校のJill Banfield博士のラボに参加したとき、ショットガンメタゲノミクスの使用を開始しました。Banfield博士は微生物学者ではなく地質学者でしたが、研究のために微生物群を特性解析することに関心がありました。Banfieldラボで、私たちは初めてのショットガンメタゲノミクス研究を実施しました。微生物群をショットガンシーケンスしてゲノムを取得し、構成要素である群内微生物の代謝再建築を行うことができるということを初めて実証しました。

Banfield博士のラボで過ごした後、数年間はアメリカに残りました。その後、カリフォルニア州Walnut CreekにあるDOE施設であるJoint Genome Instituteのメタゲノムプログラムに参加しました。そこで得たポジションのおかげで、NGSを初期に導入する機会が得られました。最初のNGSシステムはRoche 454システムで、このシステムのおかげでシーケンス出力が1年で3倍になりました。

イルミナGenome Analyzerシステムはその1年後に導入され、私たちのシーケンス出力は前年と比べて10~20倍になり、それは素晴らしいことでした。それ以降はイルミナのNGSシステムを使用してきました。現在、大学では研究用にNextSeq 550システムを使用しています。MicrobaにはNovaSeq 6000 システムがあります。このシステムは非常に良好に稼働しており、信頼できるデータを大量に生み出しています。

「NGSのおかげで、生物の遺伝情報をその生物群内で解析し、より複雑な環境からゲノム配列を取得することができます。」

質問:現在、微生物系統樹を作成するためにショットガンメタゲノムシーケンスをどのように使用されていますか?

PH:ショットガンメタゲノムを使用して全ゲノムを調べており、見事な種レベルの解像度が得られています。実際、亜種の解像度を得ることもできており、これは重要な利点です。

現在の生物の分類体系には多くのエラーが含まれています。元の分類体系は、シーケンス解析前に増殖可能なものに基づいていました。多くの生物は特徴的な形態型により分類されました。例えば、クロストリジウム(Clostridium)に分類される細菌はたくさんあります。これらの細菌は桿状であり、胞子を産生できるからです。しかしながら、これらの生物の遺伝子を見てみると、多くが非常に異なっており、お互いに関連していません。したがって、かなりの数の生物が誤分類されています。

クイーンズランド大学の私のチームは、全ゲノムデータを用いた微生物分類系の改善にほとんどの時間を費やしてきました。細菌ドメイン内で良好に保存されている120の遺伝子に注目して、それらに基づいた微生物系統樹を作成しました。この系統樹の解像度は、過去に我々が作成した分類体系よりも高くなっています。

質問:Microbaを創設した理由を教えてください。

PH:Gene Tyson博士と私はACEを設立し、分子ツールキットを使用してさまざまな微生物生態系を調べることに成功しました。私たちは、ショットガンメタゲノムを使用すれば腸内マイクロバイオームプロファイリングを高い解像度で行うことができるのではないかと気付きました。当時、それを商業的に行っている人がいなかったため、Microbaを設立することにしました。私たちのミッションは、ショットガンメタゲノムの応用と顧客向け腸内マイクロバイオームの高解像度画像を取得することです。

質問:なぜヒトの腸内マイクロバイオームを理解することは重要なのですか?

PH:私たちの体内にいる微生物の大半は腸内にいます。腸内マイクロバイオームは、私たちがこれまで考えていたより私たちの健康に大きく関与していることが複数の研究から判明しました。それは、人間の健康の見張り番と言えるものです。微生物は、私たち自身では分解することのできない食物繊維を分解して腸内細胞の餌となる短鎖脂肪酸を作り出し、代謝プロセスの制御に役立ち、遺伝子発現にまで影響を及ぼすことができます。1-2私たち人間が使用している主な神経伝達物質の1つであるセロトニンは、主に腸内で産生・消費されており、体内の微生物の影響を受けます。3また、慢性うつ病のある人の腸内マイクロバイオームプロファイルは健康な人とは異なっていることを示す情報も得られています。4

相関解析はこれまでにも行われていますが、この分野における主な批判は因果分析があまり行われていないことです。しかし、現在ではオンライン上で発表されてきており、動物モデルにおいて因果関係を証明する著名な例がいくつかあります。今後2~3年で、この研究はヒトを対象としたものになっていくでしょう。

「Microbaでサンプルを受け取ったら、自動プロセスによりDNAを抽出し、NovaSeq 6000 システムでサンプルのシーケンスを行い、サンプル当たり5ギガバイトのデータを生成します。」

質問:先生の腸内マイクロバイオーム検査プロトコールにNGSはどのように取り入れられているのですか?

PH:私たちの最初の製品はInsight Sampling Kitです。お客様はオンラインで契約し、糞便サンプル採取キットを郵便で受け取ります。糞便サンプルは、腸の下部で何が起こっているのかを示してくれます。微生物が高い割合で含まれているため、微生物DNAの抽出が簡単です。Microbaでサンプルを受け取ったら、自動プロセスを使用してDNAを抽出し、NovaSeq 6000 システムでサンプルのシーケンスを行い、サンプル当たり5ギガバイトのデータを生成します。

糞便サンプル中の微生物多様性の大部分を表すリファレンスゲノムのデータベースを作成しました。シーケンスリードをこのリファレンスゲノム上でマッピングします。可能な限り高速にするために自動化したバイオインフォマティクス解析パイプラインでデータを処理します。解釈済みの情報は、お客様がログインして結果を確認できるようにウェブサイトにアップロードします。

質問:ショットガンメタゲノムシーケンスを実施するために、なぜNovaSeq 6000 システムを選択したのですか?

PH:イルミナはここ数年間、市場をリードしています。NovaSeq 6000 システムは、現時点で最も完成したNGSテクノロジーを備えており、非常に高い信頼性があります。スタートアップ企業である私たちには、サンプル数の増加に対応して簡単に拡張でき、充実したテクニカルサポートのあるクラス最高の信頼できるプラットフォームが必要でした。イルミナはこのすべての条件を満たしていました。

質問:Microba Insight検査にかかる時間を教えてください。

PH:サンプルをバッチにして、ハイスループットのNovaSeq 6000 システムでは、92サンプルを2~3日でシーケンスできます。バイオインフォマティクス解析は48時間で完了します。ですからランに十分な数のサンプルが集まれば、サンプルからデータまでの所要時間は非常に短いです。サンプルキットの発送とサンプルの返送にかかる時間により、プロセスの時間は長くなります。

質問:シーケンスデータは、どのようにしてお客様が理解できるレポートに変換されるのですか?

PH:莫大な量のデータセットが得られるため、分かりやすい解析レポートを作成することが重要な課題となっています。私たちは、いわゆる科学者ではないお客様と関わっています。そこで2層のレポートを作成しました。このレポートでは主な結果を先にハイライトし、非常にシンプルな形にしています。機能情報を提供し、全顧客集団に対する結果を示すことができます。特定の生物が大量に存在する場合や重要な機能遺伝子が減少している場合など、標準から離れたデータにはフラグを付けます。文献では、短鎖脂肪酸である酪酸5や菌体内毒素であるリポ多糖6を産生する遺伝的潜在能力など、いくつかのことが健康と関連付けられているため、そのデータも提供します。関心のある方には、もう1つのレポート層も提供します。このレポートには微生物群構造と機能情報が詳細に記載されています。お客様にはお電話でMicrobaマイクロバイオームコーチとお話していただくことも可能です。マイクロバイオームコーチはお客様と共にプロファイルを見直し、データについて一通り説明し、結果が何を意味しているのかを説明します。

現在私たちができることは、食事に関するご提案をして、食事、腸内微生物叢、そして健康がどのように結びついているかを理解していただくことです。将来的には、臨床的に検査されたプレバイオティクスやプロバイオティクス、または個人の腸内マイクロバイオームプロファイルに基づいた微生物製品の提供が可能になるはずです。

「特定の遺伝子プロファイルをもつ個人では特定の薬剤がより効果的であるのと同じように、薬剤もマイクロバイオームに対し特異的なものになると想像しています。」

質問:今後10年でメタゲノム研究はどのような方向に進むと思いますか?

PH:著しく成長するのは、微生物プロファイルと遺伝子プロファイルを組み合わせる領域だと思われます。特定の遺伝子プロファイルをもつ個人では特定の薬剤がより効果的であるのと同じように、薬剤もマイクロバイオームに対し特異的なものになると想像しています。宿主とマイクロバイオームの遺伝型がどのように調和しているかを理解することが、個別化医療の強力な側面となると考えています。

検査に関しては、将来的には一般開業医から腸内マイクロバイオームプロファイルを取得するようになるのではないかと想像しています。血液検査のように年に一度実施されるものになるかもしれません。今のところ、腸内マイクロバイオーム検査は目新しいものとして見られていますが、ある意味そのとおりです。しかしながら、このような検査でもこれから5~10年後には一般的な検査となると信じています。

質問:今後5年間のMicrobaでの目標は何ですか?

PH:時系列サンプリングを導入する予定です。それによりお客様はご自身の腸内マイクロバイオームの経時的変化を追跡することができます。例えば、ダイエット中の人の場合、さまざまな時点のデータを比較することで、食事が腸内マイクロバイオームを経時的に変化させているのか確認することができるでしょう。

腸内マイクロバイオーム検査をさらに多くの方々に受けていただけるようにするため、国際市場への進出と価格の引き下げに集中的に取り組んでいます。中にはご自身のデータを科学的研究に使用することを許可してくださるお客様もいらっしゃいます。個別化医療の将来に貢献し、企業の価値を高めるため、潜在的治療法特定のためのメタゲノムデータのマイニングに取り組んでいます。将来的には、口腔マイクロバイオームや皮膚マイクロバイオームなど、その他の重要なヒト微生物群に関する検査を開発することも視野に入れています。

このインタビューに登場するシステムについての詳細は、以下のリンクからご覧いただけます:

NovaSeq 6000 システム

参考文献:

  1. Makki K, Deehan EC, Walter J, et al.The Impact of Dietary Fiber on Gut Microbiota in Host Health and Disease.Cell Host Microbe.2018; 23:705—715.
  2. Holscher HD.Dietary fiber and prebiotics and the gastrointestinal microbiota.Gut Microbes.2017; 8:172—184.
  3. De Vadder F, Grasset E, Mannerås Holm L, et al.Gut microbiota regulates maturation of the adult enteric nervous system via enteric serotonin networks.Proc Natl Acad Sci U S A.2018; 115:6458—6463.
  4. Cheung SG, Goldenthal AR, Uhlemann AC, et al.Systematic Review of Gut Microbiota and Major Depression.Front in Psychiatry.2019; 10:34.
  5. Laserna-Mendieta EJ, Clooney AG, Carretero-Gomez JF, et al.Determinants of Reduced Genetic Capacity for Butyrate Synthesis by the Gut Microbiome in Crohn’s Disease and Ulcerative Colitis.J Crohns Colitis.2018; 12:204—216.
  6. Brix S, Eriksen C, Larsen JM, et al.Metagenomic heterogeneity explains dual immune effects of endotoxins.J. Allergy Clin.Immunol.2015; 135:277—280.