2026年5月7日
卵巣がんの早期検出システムの開発は、多くの腫瘍学者にとって究極のゴールとされています。しかし、現在利用できるスクリーニングツールは、腫瘍が悪性かどうかを正確に判断するために十分な感度と特異性を備えていないため、卵巣がんの早期検出は極めて困難です。卵巣がんは、女性において8番目に多いがんであり、世界では30万人以上の女性が罹患しています。さらに、女性の5人に1人が、生涯のうちに卵巣の腫瘍である付属器腫瘤と診断されますが、その約80%は良性であることがわかっています。
良性と悪性の付属器腫瘤を正確に区別するための信頼できるツールは限られているため、卵巣腫瘤が疑われる女性の多くは、腫瘍ががん性かどうかを判断するために、外科的評価へ紹介されます。しかし、現在のバイオマーカーやリスク評価ツールの特異性は十分でないため、過剰診断や不必要な手術紹介につながる一方、治療効果が最も期待できる早期卵巣がんが見逃されるケースもあります。早期診断は転帰を劇的に改善することができ、生存率は早期卵巣がんでは90%を超え、進行卵巣がんでは約30%です。最終的に腫瘍ががんであることが証明された場合、手術を行わないことによるリスクが大きくなる可能性があると、がん生物学教授のBodour Salhia, PhD(University of Southern California’s Keck School of Medicine)は述べています。しかし、大半の症例は悪性ではなく、これらの女性は侵襲性の低い手術をで対応できた可能性があります。卵巣腫瘤を持つ女性に対する高リスクトリアージと紹介システムの改善は、女性医療における最大の未充足ニーズのひとつです。
Dr. Salhiaの研究チームは、長年にわたり卵巣がんの早期発見を目指してきました。この研究の中心となっているのが、卵巣がんのリスク評価のためのセルフリーDNAメチル化リキッドバイオプシーです。このアプローチでは、バイサルファイトシーケンスを使用して、がん組織と非がん組織の間で異なるメチル化領域を同定し、OvaPrintと呼ばれる分類器を構築して、悪性腫瘤と良性腫瘤を区別します。しかし、腫瘍由来DNAは循環DNA全体のごく一部に過ぎないため、血漿中のがん特異的メチル化シグナルの検出は本質的に困難です。研究者たちは、これらの微妙なシグナルを確実に捉えることができるアプローチを必要としていました。
バイサルファイトシーケンスを超えた新しいアプローチ
Dr. Salhiaの研究の重要性を認識し、イルミナは5-Baseソリューション、Illumina Protein Prep、空間技術などを含むイルミナのマルチオミクスポートフォリオへの早期アクセスをチームに提供しました。Dr. Salhiaとチームは、5-Baseソリューションを組織サンプルに適用することで、高精度のメチル化とゲノムバリアントの検出が実現できるだけでなく、DNAの完全性およびライブラリーの複雑性を非常に効率良く保持できることを発見しました。さらに、血漿サンプルに5-Baseソリューションを適用し、OvaPrintが誤って分類した、検出が難しい腫瘍の組織学的クラスを特定するのに役立つかどうかを判断しました。その結果、5-Baseソリューションはクラス分離に優れ、偽陰性の症例を救済し、悪性と良性の付属器腫瘤を従来の方法よりもはるかに良好に分離できることがわかりました。
Dr. Salhiaとチームは、マルチオミクス戦略が生物学的洞察をさらに提供できるかどうかも検討しました。Illumina Protein Prepとイルミナ空間技術を5塩基メチル化アプローチの上に重ねることで、タンパク質発現や空間的な組織コンテキストなどの補完的なシグナルを捉えることができました。この研究はまだ予備的なものですが、腫瘍生物学の理解を深め、将来のリキッドバイオプシー戦略に情報を提供するマルチオミクスアプローチの可能性を強調しています。
「マルチオミクスは、血漿シグナルの背景にある生物学的メカニズムや、それらが腫瘍の構造と活性にどのように関連しているかについて、より深い洞察をもたらしてくれました」とDr. Salhiaは述べています。「タンパク質、メチル化、空間データを統合的に解析することで、これらのシグナルの解釈はもちろん、分類や誤分類の原因の理解がはるかに容易になりました。」
「マルチオミクスは、これまで以上に深い洞察をもたらしました。タンパク質データ、メチル化データ、空間情報を一元的に解析することで、シグナルの解釈が容易になり、誤分類が生じる要因についても、より明確に理解できるようになりました。」
Illumina Connected Multiomicsポートフォリオを用いたDr. Salhiaの研究は、これまで偽陽性や偽陰性の原因となっていた卵巣腫瘍の根底にある生物学的メカニズムの解明に貢献しました。また、このアプローチは、遺伝子エンリッチメントとパスウェイ解析の実施を可能にし、卵巣がん関連する新たな分子パスウェイの発見をもたらしました。これらの知見は、がん医療における重要な未充足ニーズに対応する上で、大きな意義を持ちます。「重要なのは、バイオマーカーの正しい組み合わせを特定し、様々なアプローチを検証して、どのテクノロジーが最良の結果をもたらすかを見極めることです」とDr. Salhiaは述べています。「適切な組み合わせを実現できれば、素晴らしい可能性を開くことができます。卵巣がんに対する理解を深めるだけでなく、診断や治療方針の決定を支援し、さらには薬剤開発の前進にもつながります。」 Dr. Salhiaは、マルチオミクスをはじめとする統合型テクノロジーによって、近い将来、卵巣がんの診断をより早く、より正確に行えるようになると期待しています。こうした進歩は、侵襲的処置の削減、より明確な治療方針の決定、より迅速な医療介入、そして何よりも重要な局面での転帰改善を患者にもたらす可能性があります。
「ゲノミクス研究者にとって、今は非常に刺激的な時期です」とDr. Salhiaは語ります。「これまでの技術の進歩と、それを支えてきた多くの人々に感謝しています。また、バイオテクノロジーに変革をもたらし、最終的には患者ケアの向上につながる複雑な研究を可能にしてくれたイノベーターたちから、大きな刺激を受けています。」
AGBT 2026でマルチオミクスについて話すDr. Salhiaをご覧になるには、こちらのリンクをご覧ください。
マルチオミクスの詳細については、こちらのリンクをご覧ください。
World Ovarian Cancer Coalitionを支える支援者については、こちらのリンクをご覧ください。


