遺伝性疾患と希少疾患, 製品

ヒトゲノムの暗黒領域に潜む手がかりの探索

台湾のDau-Ming Niu医師による、Illumina TruPath Genomeを用いた長年未診断の希少疾患症例の原因解明に向けた取り組み

ヒトゲノムの暗黒領域に潜む手がかりの探索
Taipei Veterans General Hospitalの小児希少疾患専門家、Dr. Dau-Ming Niu
2026年6月1日

ヒトゲノムを校正する約30億の塩基対の中には、高度な反復性と配列相同性、複雑な構造を持つために、解釈が難しい領域が依然として存在します。こうした領域は、ゲノムの「暗黒領域」1と総称され、遺伝性疾患に密接に関連する重要なバリアントが潜んでいる可能性があると考えれられています2,3

こうした見えない領域の解明は、希少疾患研究において大きな意味を持ちます。診断がつかないまま長期間過ごしている患者の多くは、従来の遺伝子検査やショートリード全ゲノムシーケンス(WGS)を受けてはいても、明確な分子診断には至らないケースが少なくありません。

Taipei Veterans General Hospitalの小児希少疾患の専門家であるDr. Dau-Ming Niuは、20年以上にわたり遺伝性疾患の研究とゲノム医学の臨床応用を推進してきました。同医師は、WGSが将来のプレシジョンメディシンの基盤技術になると考えています。なぜなら、WGSの価値は、1回限りの診断結果を提供するだけでなく、解析ツール、疾患データベース、臨床知見の進歩に伴って保存、再検討、再解析できる、患者の生涯にわたるゲノムデータ資産を創出することにあるからです。

Dr. Niuは、将来の臨床医療では、医師が画像検査や臨床検査の結果と併せて、患者のWGSデータを長期的な臨床評価の一環として活用していくようになると考えています。その実現に向けて、Dr. Niuのチームは迅速なリアルタイムのWGS解析システムMagic Bisonを開発し、これまでに数千件におよぶWGSサンプルの解析経験を蓄積してきました。

しかし、こうした豊富な経験を持ってしても、次世代シーケンサー(NGS)では依然として解析困難な領域が存在するとDr. Niuは指摘します。ゲノムの暗黒領域や反復配列、高度に類似した相同領域、複雑な構造バリアントは、長年診断がつかないの希少疾患症例において大きなボトルネックになることが少なくありません。こうした課題に直面してきた経験から、同チームは、希少疾患研究をさらに前進させるためには、これまで以上に高い分解能を備えた先進的なゲノム技術が必要であると考えています。

解釈可能な範囲の拡大
ロングリードシーケンス技術の登場により、暗黒領域を解明する新たな可能性が広がりました。一方、臨床研究の現場では、膨大な量のデータを実用的な知見に変換するためのコストやワークフローの複雑さ、スケーラビリティといった課題が依然として残されています。

こうした課題に対処するため、イルミナは、既存のシーケンスプラットフォームを活用して長距離のゲノム情報を取得できるように設計された、TruPath Genomeを開発・発売しました。これにより、ショートリードを単なる断片的な情報ではなく、より連続性の高いゲノム構造として再構築することで、研究者が遺伝性疾患に関連するゲノム領域をより包括的に理解できるよう支援します。

本ソリューションは、近接マップリード技術を基盤とし、ショートリードシーケンスデータに加えて、DNA断片間の空間情報を統合します。これにより、長距離のゲノムコンテキストを再構築し、これまで解析が困難だったゲノム領域の解像度を向上させます。

このワークフローの重要な一部を成すのがデータ解析です。DRAGEN™二次解析とEmedgene™三次解析を組み合わせることで、生データ処理やバリアントコールから臨床相関解析に至るまで、効率をさらに向上させることができます。大規模なデータセットにかつて散在していたシグナルは、より系統的に整理され、より深い解釈が実現します。

イルミナ主催の最近のフォーラムで、Dr. Niuはバイオテクノロジー業界のパートナーとチームの進捗を共有し、TruPath Genomeが多様な希少疾患の研究環境において大きな可能性を持つことを示しました。

新たな研究の道を切り開く骨格障害
骨格発達異常のある小児の症例では、長い間、明確な診断がつかないままでした。Dr. Niuのチームは、TruPath Genomeを用いた包括的な解析により、特定の遺伝子転座の変化に関連する領域に検索を絞り込みました。これは、ぼやけた地図を拡大し続け、重要な交差点が最終的に明らかになるまで探し続けるようなものでした。

TruPath解析により、染色体の再構成は単に染色体の構造を変化させるだけでなく、骨格の発達に重要な制御領域も破壊することが明らかになりました。この領域には、軟骨形成、骨成長、および骨リモデリングに関与することが知られているノンコーディングRNA要素が含まれています。したがって、この結果は、この症例で観察された骨格異常とゲノム再構成を結びつけるのに役立ちます。

この研究結果を受けて、研究チームは新しい研究仮説を提案しました。遺伝子疾患の原因は、遺伝子そのものだけでなく、遺伝子活性の制御に関与するノンコーディングRNAやマイクロRNAにもある可能性があります。つまり、この解析により、診断上の探索範囲が狭まっただけでなく、骨格発達障害を理解する新しい方向性が示されたのです。

「いちごミルク」状の血液の新生児
別の症例では、新生児に重度の高トリグリセリド血症(トリグリセリドの異常高値)が認められました。血液サンプルでは、稀な「いちごミルク」の外観が認められました。Dr. Niuのチームは当初、家族性リポタンパク質リパーゼ欠損症を疑い、複数の検査を行いましたが、原因は解明できませんでした。その後、チームは、Emedgene AI解析と組み合わせたTruPath Genomeワークフローを適用し、APOC4-APOC2領域の欠失を検出しました。

統合的な検査と解析のワークフローにより、データの隠れた手がかりがより明確になり、より体系的な疾患シグナルの調査に役立つとDr. Niuは述べています。患者や家族にとっては、複数回の検査を受ける必要性を減らすことで、不確実性にしばしば伴う経済的および感情的な負担を軽減できる可能性があります。TruPath Genomeは、私たちの視点を広げ、より複雑な希少疾患の原因を発見するための新たな希望をもたらしました。その価値は、より実世界の研究を通して引き続き検証されると思います。

希少疾患に焦点を当てる
「希少疾患研究では、ゲノム情報が重要な出発点となります」とDr. Niuは述べています。将来を見据えると、生物学的データをさらに統合することで、研究者は疾患メカニズムをより体系的に理解すると同時に、長期間診断がつかない症例を調査する新たな機会を生み出すことができます。

ゲノムの暗黒領域の解決から疾患の根底にあるより深い生物学的メカニズムへの理解深化まで、技術革新は希少疾患研究の可能性を大きく広げています。より明確なシグナルの検出と新たなバリアントの発見は、解明困難な症例におけるエビデンス統合を推進し、希少疾患に対するより正確な理解の実現につながっています。

 

参考文献

1 Defined as the “dark-by-MAPQ” regions in Ebbert et al2, in which 90% of the reads covering the region have a mapping quality (MAPQ) less than 10.

2 Ebbert MTW, Jensen TD, Jansen-West K, et al. Systematic analysis of dark and camouflaged genes reveals diseaserelevant genes hiding in plain sight. Genome Biol. 2019;20(1):97. 2019年5月20日発行。doi:10.1186/s13059-019-1707-2

3 Ryan NM, Corvin A. Investigating the dark-side of the genome: a barrier to human disease variant discovery?. Biol Res. 2023;56(1):42. 2023年7月20日発行。doi:10.1186/s40659-023-00455-0

 

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