イルミナ次世代シーケンサーの歴史

研究者の皆様の探究心に支えられたおかげで、イルミナはゲノム解析技術の開発に専心することができました。10年前には想像でしかなかった膨大な量のゲノム情報を紐解き、医学、生物学的に重要なさまざまな発見を見つめてきました。今後はゲノム情報を人々の健康に役立てるゲノム医療の実現を願って、さらなる技術開発を継続してまいります。この先の10年を目指して、あらたなスタートを切ります。

イルミナシーケンスの歴史

1990年代中期、英国ケンブリッジ大学ではShankar Balasubramanian博士とDavid Klenerman博士が蛍光標識されたヌクレオチドを使い、1分子のレベルで表面固定されたDNAの合成時のポリメラーゼの動きを研究していました。博士らは、ヒトゲノムプロジェクトに貢献したケンブリッジ大学の研究者や、Alexander Todd, James Watson, Francis Crick, そしてFred Sangerなど、ケンブリッジ出身の過去の偉大なDNA研究者に影響を受け、彼らの手法がどのようにDNAシーケンスに使えるかを検討していました。熱心な議論が研究室やケンブリッジのパブでかわされ、1997年の夏に、クローナルアレイと固相表面で可逆的ターミネーターを使って行う短いDNA鎖の大量並列シーケンス(後にSBSケミストリーと呼ばれる)を組み合わせることで、新たなDNAシーケンス手法のアイデアにたどり着きます。

しかしながら、DNAシーケンス手法を検証するために必要な人件費などは通常の研究予算では足りず、博士らは、Abingworth Managementというベンチャーキャピタルにコンタクトをとり、資金を調達して1998年にSolexa社を設立しました。初期の研究開発はケンブリッジ大学化学学部にて行われましたが、2000年に英国チェスターフォードのリサーチパークに研究設立されると、本格的な研究開発がスタートしました。これをきっかけに、2007年にイルミナがSolexa社を吸収合併してから今日まで、この10年の間に数々の次世代シーケンサーが生まれました。

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SBS ケミストリー

Oncology

2001年に、Solexa社は1200万英国ポンドのSeries A予算を獲得した資金を活かし、3年後、Manteiaの分子クラスター技術を手に入れます。1分子のDNAをクラスター増幅することで、ベースコールの精度とフィデリティは大幅に向上し、強いシグナルを捉えることで光学系のコストも押さえることができました。その1年後、このテクノロジーを使い、バクテリオファージのPhiX-174の全ゲノムシーケンスに成功します。PhiX-174はサンガー法が最初にシーケンスした生物種でもあるのですが、SBSテクノロジーを使った手法では大量のシーケンスデータを生み出し、1回のランで300万塩基以上の塩基を得ることができたのです。

2005年に、装置を開発していたLynx Therapeuticsを合併することで、英国のチェスターフォードと、米国カリフォルニア州のヘイワードにオフィスを構える、NASDAQ公開会社となりました。この合併により、ヘイワードにいたエンジニアとソフトウェアのチームは英国チェスターフォードのチームと協力し、プロトタイプを商業化するための開発に力をいれました。そして、Solexa社の初代次世代シーケンサーGenome Analyzerが2006年にリリースされます。Genome Analyzerは1回のランで10億塩基(1Gb)のシーケンスを行う力を研究者に与えました。

ゲノム医療の実現を目指して

これまでのヒトゲノム研究の進歩は国際的かつ大規模な研究開発投資によって支えられてきました。シーケンスコストが実用的なコストに近づいたことで、これまで踏み込めなかった未知の領域、ゲノム医療の実現が現実味を帯びてきています。こうした中、日本のゲノム研究の国際的な競争力を背景に、品質重視の日本の伝統を強みとして、ゲノム医療に取り組める機会が到来しています。次世代シーケンサーの登場によって多検体のゲノム情報を短期間に取得できるようになると、情報の蓄積によって公共のデータベースが整備され、ゲノム研究は収集から活用へ、個別の遺伝子機能解析からパスウェイ解析、表現型との関連性へと発展的進化を遂げています。特にヒト疾患研究においては、遺伝子の機能に関わるエクソーム領域を濃縮して解析するエクソームシーケンス手法が確立されて普及すると、さまざまな原因遺伝子が明らかにされ、これまで以上に鮮明に遺伝子の果たす役割が分かるようになりました。日本の医療システムと医療サービスの質、日本の研究力とその質がもたらす、ゲノム医療の可能性について、一緒に考えてみませんか?