イルミナNGS 10周年記念「NGSにまつわる研究エッセイコンテスト」にご応募くださった皆様、本当にありがとうございました。
厳正な審査を重ねた結果、優秀賞が決定しましたのでお知らせいたします。
また、優秀作品を掲載いたしました。イルミナNGSにまつわる心に残る思い出をぜひご覧ください。



最優秀作品


テーマ:NGSで変えたい未来

彼女との約束

北海道大学病院 柳田 絵美衣

 NGSに出会う出会うきっかけは、20年来の友人の死。
 結婚、妊娠と女性の喜びを感じるはずだった彼女は、妊娠とともに大腸癌に罹患していることを知りました。それから5年間、彼女は必死に戦い続けました。

 私が臨床検査技師として勤めていた大学病院に入院するころは、全身に転移し、治療方法もなく死を迎える準備を始めました。いつも笑顔で頑張ると話していた彼女が、初めて泣いていました。その姿を見て、私は何もできない自分を情けなく思い、その後自分を責め続けました。臨床検査技師は、医師のように患者を治療することも、看護師のように癒すことも、薬剤師のように痛みを和らげてあげることも出来ません。その術を知らないからです。
しかし、彼女の死後に知らされたのは、臨床検査技師として働く私を家族や友人たちに自慢げに話してくれていたことでした。その時、思い出したのは、彼女の願い、彼女との約束でした。彼女の検体を使って研究させて欲しいと話したとき、彼女は「私がこの世の人たちの役に立てることがあるのであれば、是非使って欲しい。私のように苦しむ人たちを助けて欲しい」と答えました。

 あの約束をかなえるために、私は長年勤めた神戸の大学病院を退職し、北海道の地へ参りました。

 院内完結型クリニカルシーケンス。160種類のがんドライバー遺伝子を網羅的に解析する検査。
病理技師の私には、触れたこともない世界でした。しかし、彼女と同じように治療薬が無く近い未来にさえ不安を感じざるを得ない人たちが、最後の希望をかけてこの検査を受けます。患者に近いこの現場にいると、検査の重要性を強く感じ、臨床検査技師としての使命を感じます。

 検査を受け、治療薬が見つかり、治療を受けた患者がいます。
もちろん、治療薬が見つからない患者もいます。
しかし、この検査を受けることが、何らかのきっかけになると信じています。
今後、ゲノム医療が実装され、多くの患者がその恩恵を受けることができる未来が訪れます。
これからも、臨床検査技師としてゲノム医療に携わり、彼女との約束を守り続けていきたいと思います。


受賞者コメント

受賞のお知らせを聞いたときの気持ちを教えてください

 素直に感じたままのこと、友人への思いをそのまま文字に綴りました。私の”心のまま”を評価していただき、ただただ「嬉しい」の一言に尽きます。大変光栄に存じます。
 「彼女のように苦しむ人たちを救える技師になる」という彼女との約束と自分への誓いを果たさねばと、一層強い気持ちになりました。また、その思いを叶えるため、病理技師の私がこうしてゲノムの世界で日々関われているのは、指導くださる上司、共に協力し合い助け合えるチームの仲間、同じ思いを抱き私を励ましてくれる全国の臨床検査技師仲間の存在のお陰です。この道に進む私の背を、彼女が押してくれたように、この度の受賞が、また私の背を力強く押してくれます。
 この受賞を受けましたことを胸に、これからも精進して参ります。誠に有難うございました。


審査員コメント

 冒頭の一節を読んで、急速に周りの音が遠のきました。書いて下さった方の思いを受け止めなければと、集中して読み進めました。
 次世代シーケンサーが登場してから10年が経過し、その間に明らかになった医学的発見は数えきれません。
しかし、その発見で自分の大切な人を救えるようになるには、さらなるイノベーションが必要です。
時間を縮めることはできないジレンマの中で、ブレークスルーを引き起こそうと懸命に努力される方々の思いによって、 未来はより良い方向に変わっているのだと実感させられました。