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トランスクリプトミクスとは? 遺伝子発現解析の完全ガイド

RNAシーケンスの進歩により、トランスクリプトミクスを活用して遺伝子発現や細胞の挙動を解明し、創薬の推進や最終的には人々の健康向上に取り組む研究者が増えています

トランスクリプトミクスとは? 遺伝子発現解析の完全ガイド
2026年7月29日

「Multiomics Explained」シリーズでは、さまざまな「オーム」を1つずつ取り上げて解説していきます。全体像を知りたい方は、まず、初回の「マルチオミクスとは何か? 生物学の未来へのシンプルガイド」 をご覧ください。これらのオームがどのように連携し、ヒトの健康に関する最も困難な課題の解明にどのように役立つのかを紹介しています。また、研究者たちがマルチオミクスパイプラインをどのように活用しているのかについても解説しています。続いて、トランスクリプトミクスのガイドもぜひご覧ください。

今回は、トランスクリプトミクスと、それによって遺伝子発現や細胞の挙動をどのように理解できるのかに焦点を当てます。

トランスクリプトミクスとは?
トランスクリプトミクスは、トランスクリプトームを包括的に研究する分野であり、生物内に存在するすべてのRNA分子を対象とします。サンプル中に存在するRNA分子の全体像、すなわちトランスクリプトームを解析することで、細胞生物学に関する豊富な知見を得ることができます。

DNAが比較的静的で細胞核内にとどまるのに対し、RNAは動的で多様な働きを持ちます。そのため、トランスクリプトミクスは、どの遺伝子がどの程度発現しているかについて直接的な情報を提供します。メッセンジャーRNA(mRNA)は、DNAに記録された遺伝情報を転写し、それを細胞質へ運んでタンパク質の合成を担います。しかし、mRNAはトランスクリプトームの一部にすぎません。例えば、重要な制御機能を担うノンコーディングRNA(ncRNA)も数多く存在します。

RNAは、細胞がどのように機能し、互いに相互作用し、時には疾患へと進展するのかを理解するための全体像を示してくれます。そのため、RNAは生物学的インサイトを得るための重要なエコシステムの一部となっています。ゲノミクスが生物学の設計図を提供するのに対し、トランスクリプトミクスはその中で現在どのプログラムが実行されているのかを明らかにします。そしてプロテオミクスは、それらが実際にどのように機能しているのかを示します。

イルミナのトランスクリプトミクスからわかること
トランスクリプトミクスは、ゲノミクスと同様に次世代シーケンサー(NGS)を用いて解析できます。アプリケーションに応じて、イルミナのNovaSeqシステム、NextSeqシステム、MiSeqシステムはいずれもRNAシーケンス(RNA-seq)に対応しています。RNAサンプルはまず逆転写によって相補的DNA(cDNA)へ変換されるため、標準的なNGSワークフローで解析することができます。

RNA-seqは、あらかじめ選択した一部の転写産物だけでなく、トランスクリプトーム全体を包括的に捉えることができるため、遺伝子発現や細胞の挙動を偏りなく評価できます。この包括的な解析により、遺伝子発現の変化の検出をはじめ、さまざまなノンコーディングRNAの特性解析、選択的スプライシングによるアイソフォームの同定、遺伝子融合、単一塩基変異(SNV)、その他の分子的特徴の検出が可能になります。

トランスクリプトミクスに対するイルミナのアプローチ

シングルセルトランスクリプトミクス
RNA-seqは数多くの新たな発見を可能にしてきましたが、限界もあります。組織サンプルは、RNAを抽出するために分離・処理されますが、これはブルーベリーとイチゴをスムージーにして混ぜ合わせるようなものです。

その結果、従来のRNA-seqでは、サンプル中のすべての細胞における平均的な遺伝子発現しか測定できません。どのRNA転写産物が存在するかは分かりますが、それをどの細胞が産生したのかまでは分かりません。しかし、隣り合う細胞であっても発現パターンは異なる場合があり、この細胞間の不均一性は腫瘍でよく見られる特徴であるため、その違いを把握することは重要です。

こうした詳細な情報を明らかにするために登場したのが、シングルセルトランスクリプトミクスです。Illumina Single Cell 3' RNA Prepによって実現されるシングルセルRNAシーケンス(scRNA-seq)は、数百から数百万に及ぶ個々の細胞のトランスクリプトームを解析し、細胞の不均一性や組織構成、さらには希少な細胞集団を明らかにすることができます。そのため、scRNA-seqは、がん、免疫学、発生生物学をはじめとするさまざまな研究分野で不可欠なツールとなっています。

ニューヨークの研究者らがIllumina Single Cell Prepを用いて、中枢神経系(CNS)疾患に関連する脳細胞をどのようにマッピングしているのかについてもご覧ください。

Perturb-seqを用いた遺伝子発現変化解析
Perturb-seqは、特定の遺伝子を操作してその機能を調べるという従来の研究手法を発展させたアプローチです。生物全体で遺伝子の発現を増減させるのではなく、CRISPR-Cas9を用いて何百万もの個々の細胞における遺伝子機能を同時に改変し、それに伴う表現型の変化を解析できます。

このプロセスにおいて、scRNA-seqは発現変化を測定するための重要な役割を果たします。ハイスループットシーケンスとシングルセル技術を組み合わせることで、研究者は前例のない規模で遺伝子摂動がもたらす分子的影響を解析し、個々の細胞レベルでの表現型変化を包括的に理解することができます。

イルミナのハイスループットシングルセルCRISPR Prepが、遺伝子編集研究をどのように実現しているのかについてご覧ください。

空間トランスクリプトミクス
空間トランスクリプトミクスは、分子プロファイリングと空間情報を組み合わせることで、無傷の組織内で遺伝子活性がどこで起きているのかを明らかにする手法です。組織本来の構造やコンテキストを維持したまま遺伝子発現を解析できるため、腫瘍微小環境やその他の複雑な組織における細胞間相互作用の研究、正常組織と疾患組織の比較、さらには組織機能の包括的なアトラスの構築が可能になります。

空間トランスクリプトミクスの先駆けとなったのは、免疫組織化学(IHC)やin situハイブリダイゼーションなどのイメージングベースの手法でした。しかし、これらのロースループットで仮説主導型のアプローチでは、研究者があらかじめ解析対象となる転写産物を選択する必要があります。NGSベースの空間トランスクリプトミクスは、こうした初期技術を基盤として発展し、より高いスループットと偏りの少ない解析を実現しました。これにより研究者は、次のことが可能になります。

  • 遺伝子発現を無傷の組織構造上にマッピングし、分子活性と組織構造を結び付けることで、細胞機能が組織内でどのように変化するかを明らかにする
  • サンプルごとに数千の遺伝子をバイアスなく定量し、細胞生態系のより包括的な全体像を捉える
  • 複複数のオミクスデータセットを統合し、生物学的パスウェイ、細胞状態、細胞機能を支える分子メカニズムを解明する

イルミナのStrataMap Spatialソリューションは、RNA-Seq、空間バーコード、DRAGEN二次解析、およびコネクテッドマルチオミクスを組み合わせることで、研究者は空間的なコンテキストを維持したまま、広範な組織領域に存在する数百万個の細胞にわたる遺伝子発現をプロファイリングできます。これにより、どの遺伝子が活性化しているかだけでなく、その活性が組織内のどこで起きているのかも明らかにできる、スケーラブルな解析手法が実現します。その結果、細胞がどのように機能し、互いに相互作用し、組織の形成や疾患の進展にどのように関与しているのかを理解するのに役立ちます。

トランスクリプトミクスの活用方法
RNA-Seq、scRNA-seq、Perturb-seq、空間トランスクリプトミクスは、ライフサイエンス分野における遺伝子発現やノンコーディングRNAの研究方法を大きく変革しています。これらの技術の進歩により、腫瘍学、感染症、ヒトの発生学をはじめとするさまざまな研究分野で、より実用的で有用なデータが得られるようになっています。

遺伝子発現研究は、治療バイオマーカーや薬剤標的の特定を通じて、プレシジョンメディシンの発展を支える基盤となっています。RNA-Seq研究では、ノンコーディングRNAが糖尿病、糖尿病性腎臓病、転移性乳がんをはじめとする多くの疾患において重要な役割を果たしていることが明らかになっています。

また、5年におよぶMolecular and Genomic Interrogation of Childhood Cancer – Ireland(MAGIC-I)研究では、全ゲノムシーケンスとトランスクリプトーム解析を活用し、小児がん患者の疾患をより深く理解することを目指しています。

さらに、scRNA-seqアプローチにより、がん、免疫学、発生生物学に関する詳細な情報が明らかになっています。腎細胞がんに関連するあるscRNA-seq研究では、腫瘍微小環境が疾患の進行や治療への応答にどのような影響を与えるかが明らかになりました。

ヒトの発生過程を理解するための大規模な取り組みであるヒト細胞アトラス研究プロジェクトの一つでは、臓器がどのように形成・発達するのかを調べるために、200万個の細胞のトランスクリプトームがプロファイリングされました。さらに、イルミナとBroad Clinical Labsは、scRNA-seqやPerturb-seq、scRNA-seq、Perturb-seq、その他の先進的な手法を活用し、50億細胞アトラスの迅速な構築を進めています。

プレシジョンメディシンにおけるトランスクリプトミクスの未来
Perturb-seqは、遺伝子摂動が個々の細胞に及ぼす影響を体系的に解析できる強力な創薬ツールです。細胞応答を高解像度で捉えることで、薬剤標的の特定や治療抵抗性に関連する経路の解明を可能にします。

こうした多様なトランスクリプトーム解析手法によって進展する基礎研究は、最終的に創薬やヒトの健康に大きな影響をもたらします。細胞生物学への理解が深まることで、次世代の治療法や医薬品の開発がさらに加速すると期待されています。

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