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変化するパンデミックにおいてCOVIDサーベイランスを強化

ナッシュビルのAegis Sciencesとイルミナの新しいCOVID Seq v4などのラボが変異に対応する方法

変化するパンデミックにおいてCOVIDサーベイランスを強化
2021年11月3日

Dr. Matthew Hardisonは、急速に変異するウイルスが個人にどれほど影響をもたらすか身をもって知っています。2021年8月、博士と看護師の妻は3人の幼い子供とともに、COVID-19、具体的にはデルタ株に罹患しました。Dr. Hardisonと妻はどちらもワクチン接種を完全に終えていましたが、デルタ株は特に悪質でした。 

「デルタ株の広がりと、それがパンデミックに与える影響は計り知れないものです」と、Aegis Sciences CorporationのラボオペレーションSVPであるHardisonは述べます。テネシー州ナッシュビルに本拠を置く彼のラボでは、陽性率と米国で急増しているウイルス変異株を追跡しています。「わずか数週間で陽性率は7月の2%未満から16%以上に上がり、サンプルの数は、この新しい強力な変異株の止まらない感染拡大を受けて5倍に膨れ上がりました」

彼の家族がデルタ株から回復した数日後に、ミュー株が指定されました。そしてその状況は続いています。

広がるウイルスとともに検査能力も拡大
2020年の春当時、Aegis Sciences Corporationは、主に毒物学を研究する企業でしたが、同時に従業員6名の小さい分子ラボも持っていました。この分子ラボのチームは、薬局や一般健康製品を扱う会社を担当していました。Aegisは、10遺伝子と20遺伝子のパネルを使ってサンガー法と次世代シーケンサー(NGS)の両方を実施し、年間数百のサンプルを処理していました。特に注目するのは、Aegisが薬理遺伝学的パネルといくつかの新しい精神活性物質パネルも開発していたことです。

「パンデミックになった時に、進行中のオピオイド流行に対応していたことが、独自の立場で有利に活かせました。それで、新型コロナウイルスを私たちの奏功と見て、当社の能力を拡大し続ける必要があると考えました。この仕事は、必ずしも国の医療保障や民間の保険会社から払い戻しが適切に受けられるとは限りませんが、しかし、検査は非常に重要な部分です」

Dr. Hardisonのチームは、地元ナッシュビルのコミュニティとテネシー州に焦点をあてることから始めました。最初のサンプルは、COVID-19の集団発生があった刑務所とその周辺の地域からのものでした。

Aegisは、Rapid Acceleration of Diagnostics(RADx)プログラムを通じて米国国立衛生研究所(NIH)と米国保健福祉省(HHS)の支援を受け、およそ4か月の期間で検査能力を1日あたり約15,000サンプルから約110,000サンプルへ増やしました。

この成功をもとに、Aegisは2020年の秋、Walgreensと組んで全国ネットワークの検査機能を構築しました(今では、米国全50州とプエルトリコ併せて4,000を超えるWalgreensの店舗が検査を行っています)。Walgreensに加え、Aegisはまた長期介護/看護施設、緊急医療センター、州の各種保健部門など何百もの機関にサービスを提供しています。

Aegis Sciences Corporation | Photo: Abigail Bobo

2020/2021年の冬の急増に続き、Aegisは他の国で確認され始めていたSARS-CoV-2の新たな変異株にさらに注目しました。Aegisは、2021年4月に米国疾病対策センター(CDC)と提携を開始し、シーケンスを48万件まで提供しました。「イルミナMiSeq™1台からNovaSeq™ 6000プラットフォーム 2台購入まで移行し、それ以来ずっと取り組んでいます」 わずか6週間たらずで装置を設置して、Illumina COVIDSeq™アッセイを検証してリリースすることができました。

「進化する脅威に対しては進化するソリューションが必要」
ウイルスは変異して、感染力が強まったり、さらに致命的になったり、ワクチン免疫が効かなくなったり、あるいはこの3つすべてが起こる可能性があります。

「次世代シーケンサー(NGS)を感染拡大クラスターの特定に使い、対象のコミュニティにおけるCOVID-19の感染経路を予測して、広がりを監視することができます。NGSは、感染力が強まった変異株、PCR診断にリスクがある変異株を特定することができます。つまり、偽陰性の検査結果につながる可能性のある株を特定し、免疫検出を掻い潜るような変異株のリスクを特定します。

「ほぼ毎日というほど新しいバリアントが出てきます。こうした新しいバリアントはパンデミックを変化させ続けるため、迅速に動いてそれをしっかり捉えることが重要です」とイルミナのVPであり著名なサイエンティストであるゲイリー・シュロス氏は言います。「進化する脅威に対しては進化するソリューションが必要」

イルミナのような業界をリードするバイオテクノロジー企業、およびAegisのような研究所は、CDCやSPHERES(SARS-CoV-2 Sequencing for Public Health Emergency Response, Epidemiology, and Surveillance)と呼ばれる保健コンソーシアムと提携しています。イルミナとAegisは、この世界的保健課題の危機を解決するために結束している500を超える公的・民間グループのメンバーです。メンバーが話し合う議題には、検査手法、ソフトウェアソリューション、下水シーケンス、テクノロジー設計があります。

変異は、COVIDSeqなどのアンプリコンベースのアッセイでプライマー結合サイトとして知られているものに影響を与える可能性があります。その場合、プライマーはシーケンスを増幅する効率を失い、カバレッジの低下、均一性、特定のゲノム領域のカバレッジのギャップさえ引き起こす可能性があります。

「検査品や試薬が揃ってこそ、私たちの存在意義があるのです」とHardisonは言います。「イルミナは検査のスピードを上げるよう私たちを支援していたので、アッセイの改良にイルミナと協力することはごく自然な流れでした」

「イルミナが新しいプライマーセットを開発していたので、私たちはAegisのチームと組んでその新しいプライマーを検査しました」とシュロス氏。「Aegisは両方のプライマーセットを使用して数百のサンプルをシーケンスし、そのデータを比較しました。新しいセットの性能にはかなり劇的な改善が、特にデルタ株で確認されました」

AegisのNGSチームは当初、少ないウイルス量を示すCT値(サイクル閾値)が高い陽性サンプルを重点的に見ていました。こうしたサンプルでは、多くのドロップアウトが発生していました。「新しいプライマーセットでは、高いCTサンプルで約40〜50%の改善が見られました」とHardison。「これにより、陽性サンプルのスペクトラム全体でより多くのデータをCDCへ提供でき、非常に有益です」

この新しいCOVIDSeq™ v4 プライマープールでは、SARS-CoV-2増幅のための最新ARTIC v4プライマーセットを提供します。このプライマーセットは、SARS-CoV-2全ゲノムシーケンスのカバレッジを向上させ、ウイルスゲノムのギャップを減らします。これにより、より正確なバリアントの特定と新型バリアントの発見が可能になります。

「CDCに高品質のデータを提供することは、CDCがスペクトラム全体で発生するバリアントをより正確かつ迅速に追跡することに繋がります」とHardison。

Aegis Sciences Corporation | Photo: Abigail Bobo

サーベイランスの威力とデータ品質向上
これまで、GISAIDは全世界で合計460万件のSARS-CoV-2シーケンスを受け取っています。そのうち、米国からの140万件において、Aegisだけで20万件以上のシーケンスを提供しており、世界最大のCOVIDシーケンスオペレーションを行う機関の1つになっています。

「デルタ株が先行して広まったイギリス、イスラエルなどの国を見て、こんなに急速に感染拡大したのかと驚いていました。その影響を見よう、と言っていたところ、実際に監視してみたら、やはりミズーリ州で確認されました。フロリダ州でも出ました。テキサス州でも出てきました。今、2倍、4倍、8倍、16倍の勢いで拡大しています」とHardison。「これほどの感染拡大がある場合、より迅速に対応し感染対策を実行するか、または大規模集会の一時的禁止を実施することで、少なくともこのバリアントが野放しに広がることを食い止めることができるかもしれません」

ゲノムサーベイランスデータは、地方、州、連邦機関のCOVID-19対応に役立っています。データがあれば、リソースをより適切に配分し、感染拡大防止策を迅速に実施することができます。

「それはAegisの理念に帰結します」とHardison。「今回の場合は、医療従事者を支援するだけでなく、より適切な意思決定をもたらしています。また保健機関にもより適切な意思決定が下せるよう役立っています。これが人々の生活に大きな違いをもたらすと心から信じています。」