2026年2月3日
腫瘍学の世界では、診断に際して答えよりも多くの疑問が伴います。これは、特に希少がんの場合に当てはまります。専門医が少なく、リソースが限られており、治療の選択肢が不十分なため、稀少がんの診断に対処するのは大変なことのように感じられるかもしれません。そこに登場するのが、希少がん患者の支援者であり、希少がん研究財団 (RCRF) であるPattern.orgの代表、Barbara Van Hare氏です。「腫瘍学の治療には多くの不確定要素がありますが、希少がんの患者の場合はさらに多くなります」とBarbara氏は話します。「意味のある影響を及ぼすためには、臨床医、研究者、患者、そして患者支援者が協力することが不可欠です」
Barbara氏が希少がんと患者支援活動に関わったのは、彼女の家族がきっかけでした。1959年、彼女がまだ2歳のとき、父親が口腔がんと診断されました。それから60年以上の年月を経て、今度は弟が脳腫瘍の中で最も致死率の高い多形性膠芽腫と診断されました。彼は余命18ヶ月と宣告されていたのですが、画期的な臨床試験のおかげで今も生存しています。弟の診断から数年後、中国に住んでいたBarbara氏の甥にあたるMark Laabs氏は、突然右目の視力を失いました。転移の可能性が50%の希少がんであるぶどう膜黒色腫と診断されました。
これは彼女にとって、がんに関する3度目の経験でしたが、それが最後ではありませんでした。その後、Barbara氏自身も後に多発性黒色腫と診断され、さらに慢性リンパ性白血病 (CLL) と診断されました。これらの5つのがんは全く無関係に見えましたが、水面下では共通する要因がありました。
患者中心のプラットフォーム
治療を受けている間、Barbara氏の甥であるMark氏は、一般的ながんの治療法は大きく進歩している一方で、希少がんに関してはこの25年間ほとんど治療法に進歩がないことに気づきました。毎年、世界中で何百万人もの人ががんに罹患しており、希少がんはがん全体の約4分の1を占めています。しかし、組織サンプルが入手困難なことが多いため、研究者は稀少がんの根底にある生物学的メカニズムに関してほとんど知見が得られていません。希少がんの研究を進めるには、研究者は臨床データと組織サンプルの両方にアクセスする必要があります。そして、患者は潜在的なメリットと実施されている安全対策を理解している場合、自ら進んでそれらを提供することが多いのです。
自身の体験や経験が他の人々の役に立つかもしれないと気づいたMark氏は、自分のがん治療の経験を希少がん患者に本当に影響を与えるものにしようと決意しました。2014年、彼は希少がんの治療を支援するためのインフラ構築を専門とする非営利団体、希少がん研究財団(RCRF)を設立しました。
このRCRFは、米国全土の病院の希少がん患者とそのケアチームと協力することで、患者と研究コミュニティー間の重大な溝を埋める存在となっています。またRCRFは、患者が特定の種類のがんを研究したい研究者に直接組織サンプルを寄付できるようサポートしています。
RCRFでは、Barbara氏が組織の患者支援チームを率い、寄付プラットフォーム、pattern.orgの組織とデータ収集を管理しています。これらのプログラムは、患者主導の協力によって推進されており、患者が希少がん研究のペースを加速させると同時に、研究者に組織サンプルや臨床データを提供することで希少がんへの理解を深めることができます。患者は、サンプルを研究者に直接送るか、将来の研究のためにRCRFのPattern Biobankに保管するかを選択できます。また、患者は、ゲノムデータやその他の医療記録を含む生物学的データを、さまざまな研究機関から希少がんデータを集約するRCRFのオープンソースプラットフォームであるPattern Data Commonsに寄付することもできます。
これらのツールを組み合わせることで、研究者は生物学的サンプル、生物学的データとゲノムデータ、病歴のデータベースにアクセスでき、患者を第一に考えながら希少がんの研究を加速させることが可能となります。「新しい治療法を見つけるために、研究者は組織データと医療データ全体にわたるパターンを見つける必要があります」とBarbara氏は言います。「しかし、私たちのグループは本質的には患者を中心に考える組織です。私たちは患者さんに力を取り戻させています。そして、患者が研究を主導し、財団やその他の団体が協力して患者と研究者の両方を支援できるような体制の構築を目指しています」
知識のパワー
RCRFでは、組織検体と医療記録の両方の寄付を促進するだけでなく、ゲノムシーケンスサービスに対する認識を高め、患者をゲノムシーケンスサービスに結び付けています。全ゲノムシーケンスと全エクソームシーケンスでは、がんの根底にある遺伝子変化に関する重要な洞察が得られますが、ほとんどの希少がん患者にとって、シーケンシングは手の届かないものであり、標準的な治療の範囲を超えています。RCRFは、医療従事者にゲノミクスの重要性を教育することで、希少がん患者の支援に取り組んでいます。
甥のMark氏が、直感から自分のがんの病変を検査してもらおうとしていなかったら、Barbara氏自身が遺伝子検査を受けようとは考えることは決してなかったでしょう。Mark氏の検査結果では、POT1遺伝子に稀な生殖系列変異が見られました。POT1遺伝子の変異は、皮膚黒色腫、慢性リンパ性白血病、血管肉腫、神経膠腫のリスクを高めることがわかっており、そのうち3つはBarbara氏、甥、または弟が診断を受けていました。
残念なことに、多くの医師は、遺伝性がん研究やPOT1などの希少変異に関する最近の進歩にまだ気づいていません。研究によれば、黒色腫の約10%が遺伝性であると示唆されているにもかかわらず、ほとんどの臨床医は依然として患者の黒色腫は日光曝露によるものだと考えています。実際、Barbara氏が2度目の黒色腫と診断され(彼女はこれまでにも何度か黒色腫を患っていた)、家族歴と甥のPOT1変異を挙げて遺伝子検査を希望したところ、彼女の皮膚科担当医は彼女の意見を無視し、過剰反応していると告げて、がんの原因は単に日光曝露にあると診断したのでした。しかしBarbara氏の直感は当たっていました。別の医療機関でゲノムシーケンスを依頼し、その結果、彼女もPOT1変異を持っていることが確認されたのです。この知識のおかげで、Barbara氏は現在、この変異に関連するがんの検査をより頻繁に受けるようになりました。
希少な生殖系列変異とそのがんとの関連性に対する科学的理解が深まるにつれ、Barbara氏のような患者は拡大する臨床試験の展望から恩恵を受ける立場にあります。「ゲノムシーケンステクノロジーは希少がんに関する洞察を迅速に得ることを可能にしてくれるでしょう」とBarbara氏は語ります。「こうした必要性についてより多くの患者や臨床医を啓蒙することで、希少がん患者をターゲットとした治療法を明らかにし、個別化医療を進歩させる大きな可能性が生まれるでしょう。これらの困難な問題を解決するには、腫瘍学のエコシステムに関与する組織体が相互に協力して取り組む必要があります」
2024年初頭、Mark Laabs氏がこの世を去りました。RCRFと希少がんコミュニティーのために先見の明のある道筋を示した人でした。Barbara氏とRCRFチームは、希少がん患者とその家族に将来の希望を与えるという彼のビジョンを実現することで、日々彼の遺産を尊重し続けています。
Barbara Van Hare氏は患者支援者のひとりです。イルミナのグローバル患者支援チームは、患者、家族、介護者、および彼らを代表するグループと協力して、ゲノミクスの活用によるプラスの影響を訴え、その証拠を確立しています。患者支援者は、そのストーリーを分かち合う時間に対して報酬を受ける場合があります。彼らの経験は、ゲノミクスが希少疾患に及ぼす可能性のある影響と利点を裏付けるものとなります。ある患者の経験から全ての症例の結果を予測できるものではありません。結果は、さまざまな要因によって異なるものです。他の症例では、結果が異なる場合がみられるのです。


