疾患研究のための全ゲノム関連解析

複雑な疾患に関連する遺伝的バリアントを同定する

単一のピペットを使用する女性サイエンティスト。ラボベンチの背景には、顕微鏡およびその他のラボ機器が見える。

全ゲノム関連解析とは?

全ゲノム関連解析(GWAS)は、特定の形質や疾患に関連する遺伝的バリアントを同定するために、多くの個人のゲノムをスキャンして比較する研究アプローチです。GWASは、ハイスループットのゲノムテクノロジーを用いて大規模集団の個人のDNAを分析し、疾患リスクに影響を与える可能性のある一塩基多型(SNP)やコピー数多型(CNV)などのバリアントを明らかにします。これらの解析は、複雑な疾患の遺伝的構造を理解し、プレシジョンメディシンで使用される標的治療の開発研究を導くうえで不可欠です。1,2

コモンバリアント発見のためのGWAS

複雑な疾患は、多くの場合、遺伝的コモンバリアントと関連していますが、レアバリアントや低頻度バリアントの役割は依然として十分に理解されていません。マイクロアレイを使用した大規模GWASは、遺伝子座を同定し、疾患に関連するコモンSNPバリアントを推定するための効率的かつ費用対効果が高い手法です。しかし、マイクロアレイは、低頻度SNPバリアントの検出に関しては限界があります。塩基単位の解像度で全ゲノムシーケンスを行うことにより、疾患に関連する可能性のあるコモンバリアントとレアバリアントの両方を同定できます。

全ゲノム関連解析の利点

新しいバリアントの発見

報告される形質や疾患との関連が増え続ける中で、新たなバリアントと形質の関連性を発見します。3,4

ゲノムの洞察

臨床研究、ポリジェニックリスクスコアによる疾患予測、疾患予防、治療決定のためのガイダンス、および薬剤開発、選択、および用量の最適化のために遺伝子型情報を使用します。

スケーラブルで共有可能なデータ

大規模かつ多様化するサンプル集団を対象とした解析を可能にする、共有可能なデータセットを作成します。

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GWASと遺伝性疾患に関する機会

GWASは、まだ多くの疾患や障害に対して実施されているとはいえません。また、現在までのGWASの参加者は、その大半がヨーロッパ系です。ヨーロッパの人口は全世界の約16%に過ぎないので、より多様なGWASデータセットの必要性が認識されています。5,6


人種、民族の多様性に加えて、特定のサブグループ内での多様な疾患についてもGWASを実施する必要があります。これは、どの遺伝子および遺伝子パスウェイが疾患のメカニズムと病因に関与しているのかを探る手がかりとなります。

特定の複雑な疾患におけるバリアントの同定に成功

広く用いられているGWASのケース-コントロール法で、疾患のある集団(ケース)と健康な集団(コントロール)という2つの大きなグループを比較し、以下の複雑な疾患のバリアントを同定することに成功しました。

  • 2型糖尿病7
  • パーキンソン病8
  • クローン病9
  • 各種の心疾患(冠状動脈疾患、心房細動、心筋症など)10-13
  • 各種のがん(乳がん、大腸がんなど)11

GWAS応用分野

GWASが強力なゲノムの洞察を提供し、医薬品開発研究、複雑な疾患、がんリスクなどの理解をどのように深めているかをご覧ください。

研究者がどのようにマルチオミクスアプローチを使用してGWASを強化し、医薬品開発のターゲットを発見した方法をお読みください。

この記事では、糖尿病、関節炎、がん、認知症などの複雑な疾患に対する理解を一新したGWAS関連の過去20年間の研究についてご紹介します。

研究者がどのようにUK BiobankとarcOGENのリソースを活用して、455,221人における約1,750万の一塩基変異を対象に、変形性関節症のゲノムワイドメタ解析を行い、65のゲノムワイドの有意なバリアントを同定したかをご覧ください。

サイエンティストが、新規のがんリスク遺伝子座を同定し、乳がんと前立腺がんの共通遺伝率を明らかにするために、汎がんおよび集団間GWASメタ解析をどのように実施したかについてご紹介します。

サムネール

バリアントから機能(Variant to Function)研究を理解する

バリアントから機能(Variant to Function=V2F)の研究では、疾患に対する遺伝子バリアントのマッピングに焦点を当て、新しいバイオマーカーを発見し、これらのバリアントが細胞プロセスにどのように影響するかを理解し、さらに複雑な疾患の治療方法を変えるようなブレークスルーを目指します。V2F研究の詳細については、こちらの動画をご覧ください。

GWAS専門家の話を聞く

GWASを使用して複雑な遺伝的形質をマッピングする

研究者は、疾患に関連するDNAリスク遺伝子座を同定し、ポリジェニックリスクスコアを開発するため、大規模なGWAS研究を実施しました。

GWASからNGSへ:小児の複雑な遺伝性疾患の遺伝学

フィラデルフィア小児病院の教授らが、NGSを使用してバリアントを原因遺伝子にマッピングした方法について論じています。

GWASを使用してパノミクスベースの創薬を推進する

画像解析、マルチオミクス技術、大規模データと組み合わせて、GWASを使用して、一般的な慢性疾患の新しい診断および治療標的をどのように明らかにしたかについてご紹介します。

GWASワークフロー

このGWASワークフローの例では、集団規模の遺伝子研究、バリアントスクリーニング、プレシジョンメディシン研究において、強力で費用対効果の高いBeadChipであるInfinium Global Screening Array-24がどのように活用されているかを示します。疾患関連の検証、リスクプロファイリング、先制的なスクリーニング研究、ファーマコゲノミクス研究を可能にする幅広い疾患をカバーしています。

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Male scientist holding an 8 lane pipette in one hand and a library tube in the other; tubes are filled with clear liquid; lab equipment in the foreground and background.

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参考文献
  1. National Human Genome Research Institute. Genome-wide Association Studies (GWAS). genome.gov/genetics-glossary/Genome-Wide-Association-Studies-GWAS. 閲覧日:2025年10月24日。
  2. National Human Genome Research Institute. Genome-wide Association Studies Fact Sheet. genome.gov/about-genomics/fact-sheets/Genome-Wide-Association-Studies-Fact-Sheet. 閲覧日:2025年10月24日。
  3. Tam V, Patel N, Turcotte M, et al. Benefits and limitations of genome-wide association studies. Nat Reviews. 2019;20:467-484. doi: 10.1038/s41576-019-0127-1
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  5. Martin AR, Kanai M, Kamatani Y, et al. Clinical use of current polygenic risk scores may exacerbate health disparities. Nat Genetics. 2019; 51: 584-591. doi: 10.1038/s41588-021-00797-z
  6. Ju D, Hui D, Hammond DA, et al. Importance of Including Non-European Populations in Large Human Genetic Studies to Enhance Precision Medicine. Annu Rev Biomed Data Sci. 2022;5:321-339. doi: 10.1146/annurev-biodatasci-122220-112550
  7. Shojima N, Yamauchi T. Progress in genetics of type 2 diabetes and diabetic complications. J Diabetes Investig. 2023 Apr;14(4):503-515. doi: 10.1111/jdi.13970
  8. Arya R, Haque AKMA, Shakya H, et al. Parkinson's Disease: Biomarkers for Diagnosis and Disease Progression. Int J Mol Sci. 2024 Nov 18;25(22):12379. doi: 10.3390/ijms252212379
  9. Sazonovs A, Stevens CR, Venkataraman GR, et al. Large-scale sequencing identifies multiple genes and rare variants associated with Crohn's disease susceptibility. Nat Genet. 2022 Sep;54(9):1275-1283. doi: 10.1038/s41588-022-01156-2
  10. Aherrahrou R, Reinberger T, Hashmi S, et al. GWAS breakthroughs: mapping the journey from one locus to 393 significant coronary artery disease associations. Cardiovasc Res. 2024 Nov 5;120(13):1508-1530. doi: 10.1093/cvr/cvae161
  11. Tcheandjieu C, Zhu X, Hilliard AT, et al. Large-scale genome-wide association study of coronary artery disease in genetically diverse populations. Nat Med. 2022 Aug;28(8):1679-1692. doi: 10.1038/s41591-022-01891-3
  12. Roselli C, Surakka I, Olesen MS, et al. Meta-analysis of genome-wide associations and polygenic risk prediction for atrial fibrillation in more than 180,000 cases. Nat Genet. 2025 Mar;57(3):539-547. doi: 10.1038/s41588-024-02072-3 
  13. Tadros R, Zheng SL, Grace C. et al. Large-scale genome-wide association analyses identify novel genetic loci and mechanisms in hypertrophic cardiomyopathy. Nat Genet 57, 530–538 (2025). doi: 10.1038/s41588-025-02087-4