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モーニングセミナー1
日時 2022年5月22日(日)午前7時30分~8時30分
会場 第1会場(ホテルニュー長崎3F 鳳凰閣 東中)
座長 長崎大学病院産婦人科 三浦 清徳 先生
演題 新生児期・小児期における網羅的ゲノム解析:研究から診療へ
演者 慶応義塾大学医学部臨床遺伝学センター 小崎 健次郎 先生
要旨 われわれは2015年から臨床的に診断不明の小児・成人を対象に網羅的ゲノム解析(エクソーム解析・全ゲノム解析)によって原因診断を目指すプロジェクト「未診断疾患イニシアチブ(IRUD)」を進めている。参加者が5000家系を越え、診断率は40%程度である。Kosaki overgrowth syndromeなどの新規疾患も同定され、治療研究も国内外で進展している。遺伝性疾患に罹患した子を有する夫婦に対する次子再罹患率の提供など、遺伝カウンセリングを通じて産科診療にも貢献している。

IRUDは全国の約40の拠点病院をハブとする診断支援事業として発展しているが、結果返却までの期間が半年を越え、新生児医療を含む急性期診療の分野には適さないという課題があった。そこで新生児の診断に特化したプロジェクト「新生児集中治療室における精緻・迅速な遺伝子診断に関する研究開発」を2019年に開始した。人工知能の導入や検体収受のロジスティクスの改善により、採血後7~10日程度で結果を周産期担当医に返却することが可能となった。現在、日本全体の周産期医療を遺漏なく支援するシステムの構築を目指している。網羅的ゲノム解析において必須である遺伝カウンセリングの適切な提供がボトルネックであったが、コロナ禍を契機として遠隔診療が普及したことに着目し、オンラインでの遺伝カウンセリング提供体制を整備した。

昨年からはマイクロアレイ染色体検査が保険適用となった。エクソーム解析・全ゲノム解析に比べて単純な検査であるものの、臨床検査会社からは診断名ではなく異常のあるゲノム領域のデータが返却されるシステムとなっており、データの病的意義の判定は検査を依頼した医師に任されている。この課題を解決するためにわれわれの研究室はソフトウェア(CAS)を開発した。CASはデータ解釈に必要な各種データベースを自動参照し、病名診断を支援する。半年で全国の200名以上の小児科医・研究者によりダウンロードされた(https://cmg.med.keio.ac.jp/arraryclassified/)。

これまでの遺伝学的検査(遺伝子診断)では、臨床症状に応じて少数の原因遺伝子を想し、遺伝子変異の有無を調べていた。エクソーム解析・全ゲノム解析・マイクロアレイ染色体検査を含む網羅的ゲノム解析では先に全遺伝子を調べた上で、臨床症状との合致を評価する順序になり、伝統的な臨床医学のアプローチを逆転させている。新しいアプローチを「ゲノム・ファースト」などと無批判に礼賛する向きもあるが、すべての臨床医学の起点はやはり臨床症状である。特に網羅的ゲノム解析では、疾患と関係のない個人差レベルの塩基配列の変化を疾患原因と誤認し、過剰診断するリスクが常に付きまとう。講演で紹介するゲノム解析技術は胎児期にも応用可能であり流産胎児の遺伝学的原因の評価には極めて有用と期待される一方、無症状や家族歴のない胎児に対する網羅的ゲノムスクリーニングの導入については慎重な配慮が必要であろう。
 
日時
2022/05/21 – 2022/05/22
Location
ホテルニュー長崎
Japan
Asia
Topic
Reproductive health
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