2019年10月18日(金)、東京品川にて、イルミナセミナー「がんゲノム医療推進に向けて ~ がんゲノム医療社会実装に向けての、病院側と保険会社側の取り組み ~」を開催しました。
イルミナの企業講演をはじめ、がんゲノム医療に取り組まれている病院側の演者として、慶應義塾大学医学部腫瘍センターゲノム医療ユニットの加藤容崇先生と岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の平沢晃先生にご登壇いただきました。また、がんゲノム医療にも対応する自由診療保険を提供している、セコム損害保険株式会社メディコム業務推進部の鈴木彰様にご講演いただくとともに、がん経験者による患者側から見たがんゲノム医療の感想も聞かせていただきました。
弊社技術営業部の北野敦史より、国内のがんゲノム医療体制、がん遺伝子検査の国内利用動向およびがんゲノム医療の課題について紹介いたしました。また、がんには遺伝する変異(生殖細胞系列変異)と遺伝しない変異(体細胞変異)があり、海外では遺伝する変異を検査するパネル検査の活用により、遺伝性腫瘍の早期発見、5年生存率の著しい向上につながった事例を紹介いたしました。日本でも間もなく生殖細胞系列変異検出用パネルを発売予定です。
慶應義塾大学病院の加藤先生は、病理医の立場から、ゲノム医療を進める中で見えてきた課題を検査前、検査、検査後に分けて紹介していただきました。
検査前の課題には、ゲノム診療用病理組織検体の品質問題を取り上げ、慶應義塾大学病院と関連病院が実施しているがんパネル検査「PleSSision検査」における検体処理プロセスの適正化についてお話しいただきました。
従来、腫瘍摘出からホルマリン固定までは外科医の担当となりますが、検体処理適正化プロセスでは、この腫瘍摘出から検体のホルマリン固定のプロセスにも病理医が関わるようにしました。その結果、検体処理適正前は37.0%の検体が検査基準を満たさず不適切検体とされましたが、検体処理適正化後の不合格率は0.4%までに減りました。
また、検査の課題としては、検査技師の教育、作業の標準化が挙げられました。外科、病理、看護、コメディカルスタッフ、全員の連携がゲノム診療用のワークフロー確立には必要ですが、人員不足もあり施設ごとのルール徹底を定着させるにはまだ時間がかかるとのことです。最後に、検査後の課題として、Druggable変異(実際に投薬可能な薬剤が存在する遺伝子変異)の対象薬剤を適応外使用することについて、その是非が最大の問題と指摘されました。
岡山大学大学院の平沢先生からは、がんゲノム医療の課題と、がんゲノム医療を適切に展開するための3つの鍵、1.ELSI(Ethical, Legal, and Social Issues)、2.当事者団体との連携、3.データシェアリングについて、ご講演いただきました。
岡山大学病院は複数のがん遺伝子パネル検査を導入しており、がんゲノム医療の実装で見えてきた課題の中、先生の専門分野でもある臨床遺伝学とがんゲノム医学の観点から、がん遺伝子パネル検査で得られた生殖細胞系列バリアント(Germline finding)情報について、患者が知るメリットは、1.本人のがん治療方法の選択に役立つこと、2.本人の2次がん予防、3)家系員のがん予防への活用、の3点にとまとめられました。
がん遺伝子パネル検査を施行すると、約1割の症例に生殖細胞系列バリアントが同定されます。そのうち最も高頻度に検出されるのはBRCA1/2を原因遺伝子とする遺伝性乳がん卵巣がん(Hereditary breast and ovarian cancer : HBOC)です。そこでHBOCをがんゲノム医療実用化の代表例として、その現状について述べられました。本年(2019年)は、1994 年に三木義男博士によってBRCA1が同定されてから25年目です。HBOCは診断、予防、治療の方法がそれぞれ確立され、適切な診療によって確実ながん死低減効果が得られるようになってきたのにも関わらず、日本では一部のコンパニオン診断を除いては、遺伝カウンセリング料金、遺伝学的検査、サーベイランス、リスク低減手術など、多くの医療がまだ保険未収載です。
このようにがん遺伝子パネル検査が保険収載されたとしても、遺伝性腫瘍診療の多くが保険未収載であるため、診療科間の連携や、本人の負担、さらには遺伝情報を届けることによってメリットがあるはずの家系員へのアクセスが困難になっている現状について実例をもって示され、これらはゲノム医療実用化を進める上での焦眉の急の課題であると強く課題提起をしました。
ゲノム解析の結果、検出・蓄積された疾患関連ゲノム情報は、多くの研究者や医療者が共有・利用(国際データシェアリング)するなどの「国際医学研究」としての役割を持つとともに、家系や地域で共有している事から、家庭内の課題および地域医療としての側面があるとし、ゲノム医療を本質的に普及させるためには、遺伝情報を医療者が管理する以前に、当事者・患者ら自らが理解して、家庭、学校、社会で語りあうことが重要と指摘しました。
近年は医学研究・臨床試験(治験)を中心に患者・市民参画(PPI:Patient and Public Involvement)の取組みを促進していることを紹介しました。今後個別化医療を目指すゲノム医療においてPPIの役割はさらに重要になります。岡山大学病院臨床遺伝子診療科では「伝える」から「伝わる」同意説明文書を作成するため、ゲノム医療当事者団体との連携を推進し、当事者に安心してもらえる遺伝医療・ゲノム医療を提供することを実践していることを紹介されました。
セコム損害保険株式会社の鈴木様より「メディコム」という自由診療保険についてご紹介いただきました。「メディコム」は、自由診療・先進医療・公的保険診療を問わず、かかった治療費の実額を補償し、治療費の心配をせずに、安心して医師とともに完治を目指す「がん保険」です。
がん遺伝子パネル検査の保険適用は、標準治療がない、もしくは標準治療が終了(終了見込みを含む)しているがん患者に限定されていることから、「メディコム」は保険診療だけでなく、先進診療、自由診療でのがん遺伝子検査の費用も実額補償し、がん患者の治療薬の選択に一役を買うことができます。また、見つかった治療薬が保険適用外であっても補償対象となるので、メディコム保険加入者は治療費のことを気にせず治療に専念できることを、実際の保険償還例を交えながらご紹介いただきました。
最後のセッションでは、「メディコム」の加入者でがんを経験された方にご登壇いただき、セコム損保の鈴木様と対談の形で、がんの発覚から、治療、がん転移による手術、抗がん剤治療の開始、そしてがん遺伝子パネル検査実施に至った経緯、がん遺伝子パネル検査の実施で得られたものについて語っていただきました。
がん経験者は、今まで大きな病気をしたことがなく、がん発覚時はショックな気持ちがあったものの、周りのサポートを受けながら前向きに治療を開始されていました。しかし、転移により2年間で3回もの手術を行い、抗がん剤治療も余儀なくされている中、「自分にどんな治療があっているかを知りたい、どの薬になっても納得して前向きに治療をしたかった」という想いで、がん遺伝子パネル検査の実施に至った、そしてがん遺伝子パネル検査の結果から、今までの治療法で自分に合っていたことを知った時の安心感を、紹介いただきました。
また「メディコム」の加入者であるからこそ、金銭面的な心配がなく、がん遺伝子パネル検査を受ける判断をしたこと、治療や手術などにかかった費用も保険金でカバーできたため、安心して治療に専念できたことを語っていただきました。
今回のセミナーは、がんゲノム医療にかかわる医療関係者、保険代理店の方々、メディア、高校の先生などさまざまなバックグラウンドを持っている方にご来場いただき、世間におけるがんゲノム医療に対する関心度の高さが伺うことができました。講演後演者への質問や意見交換も多く行われ、大変盛況な会になりました。