アグリゲノムセッション

アグリバイオセッションレポート

非モデル生物種のゲノム配列の解読から、家畜や穀物といった有用農作物の分子育種、ゲノム選抜まで、幅広い研究成果についてご講演いただきました。研究対象の生物種も手法も非常に多彩で、活発な質疑応答が展開されました。ご参加のお客様からは「普段交流のない異分野の話を聞くことが出来て、非常によい刺激になった」とのコメントをいただきました。

東京農大ゲノムセンターにおける非モデル生物の解析

 平成20年に初めてイルミナ初期の次世代シーケンサーであるGenome Analyzer IIを導入されて以来の、生物資源ゲノム解析センターでの実績をご紹介いただきました。ゲノムセンターには、学内からの依頼や学外との共同研究などで様々なサンプルが持ち込まれます。これまでに解析された生物種は家畜や野菜、穀物に留まらず昆虫、微生物等極めて多岐にわたり、その中にはゲノム配列が決まっていない、いわゆる非モデル生物も多く含まれます。生物種や目的に応じて、RNA-Seq、メタゲノム、DNAのリシーケンスやエピゲノム解析など多様な手法を用いながら、ゲノムセンターに揃えられたHiSeq、NextSeq、MiSeqなどイルミナの各種次世代シーケンサーを駆使して農学分野でのゲノム解析を支援されています。またこうした非モデル生物の解析においては、配列を解読する所よりもアノテーション情報の整備が研究の鍵となることを強調されていました。

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座長 東京農業大学
応用生物科学部 兼 生物資源ゲノム解析センター
矢嶋 俊介 先生

マリンゲノミックスの応用に向けて

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)には、SQC(DNA Sequencing Section)と呼ばれる配列解読の専門チームがあり、技術に精通したスタッフがHiSeqやMiSeqを含む複数の次世代シーケンサーを活用して日々研究を支えています。また解読された生物種のゲノム情報を、OISTのウェブサイトよりゲノムブラウザー上に公開しています。ご講演では、カタユウレイボヤのゲノム解読から始まるご自身の海産生物ゲノム解析の履歴に触れつつ、サンゴとその共生カッチュウソウ、モズクなど、最近の「人に喜ばれる」ゲノム解読の成果と今後について解説いただきました。アコヤガイの例では、真珠の形成過程についてゲノム情報からそのメカニズムの解明を行う、効率のよい繁殖方法を開発するなどの成果が期待されます。一方、全く「人間の役に立たない」ために一切ゲノム研究の対象となっていない生物の解析も精力的に行っており、動物界の分類として現在認識されている34門全てを読むという野望についても語られました。

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沖縄科学技術大学院大学 マリンゲノミックス・ユニット
佐藤 矩行 先生

State of Agrigenomics at Illumina

 アグリゲノム分野で活用いただくための新製品を含むソリューションをご紹介しました。最初に多サンプルの大規模ジェノタイピングに対応するInfinium XTという96サンプルフォーマットのマイクロアレイと、今年1月に発表されたNRGene社とのコマーケティングについて触れ、植物など複雑なゲノムを持つ生物種のde novoアセンブリーを、Short Readのみで短期間に効率よく行うDeNovoMAGICについて述べました。その後ウシの親子判定とともに複数の経済形質関連SNPの評価ができる新製品、TruSeq Bovine Parentage Panelの特徴を解説しました。

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Ryan Rapp, Ph.D,
Associate Director - Agrigenomics, Illumina, Inc.
Britton Miller, Ph.D,
MBA Product Manager - Agrigenomics, Illumina, Inc.
次世代シーケンス技術を活用したイネにおけるゲノム育種

 以前のご所属である岩手県生物工学研究センターで開発されてきたMutMap法についてご講演いただきました。イネの育種において従来の連鎖解析を用いた方法では、長い時間と膨大な手間をかけて各形質と関連するマーカーを同定する、というステップが必須でしたが、近縁系統を掛け合わせると目的の表現型が出やすい一方で両者を区別できるマーカーが見つかりにくく、遠縁系統を掛け合わせると逆に違いのあるマーカーが見つかりやすいものの臨んだ表現型が出にくいというジレンマがありました。高木先生らが開発されたMutMap法では、変異体とその親系統の掛け合わせによって得られたF1世代の内、目的の変異を持つ変異体から得られたDNAを複数個体分プールして次世代シーケンサーで配列を解読、親世代のDNA配列と比較して優位にSNP-Indexの高い領域を原因遺伝子が存在する箇所として迅速に同定することが可能です。これを利用して、耐塩性の高いヒトメボレ、「海神」の育成に成功され、津波等で塩害の残る地域での活用が期待されます。

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石川県立大学 生物資源環境学部 
高木 宏樹 先生

高密度SNP情報を用いたゲノム選抜~ウシ集団を例として

 家畜育種の基礎、歴史から今後の展望までを解説いただきました。ウシを始めとする家畜育種では、その個体の遺伝的能力である育種価の評価において、ゲノム情報はブラックボックスとして扱われてきました。しかしながら近年の家畜におけるゲノム情報の整備、またイルミナの高密度SNPチップの登場により数万のSNPの情報を用いて遺伝的能力の高い個体を選抜するゲノム選抜法が可能になっています。肉牛においては約200頭の雄牛から2~3頭を選んで種牛として利用するため、選抜の精度が後の世代に大きな影響を与えます。また乳牛においては、後代検定という娘牛の成績でその親牛の能力を正確に評価する方法が採用されていますが、これには5年など長い期間を要するため、後代検定前の若雄牛の段階で選抜できることは大きなメリットとなります。上本先生の所属される家畜改良センターでは、乳牛のゲノム育種価の予測値を公開するなど、本法の普及に向けた取り組みをされています。

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家畜改良センター 改良部 情報分析課 
上本 吉伸 先生