ゲノム医療セッション

ゲノム医療セッションレポート

がんゲノムの全ゲノムシーケンス解析

 2008年より開始したICGC(International Cancer Genome Consortium)で進められているがんゲノムのカタログ作り(2018年完了予定)の取り組みを紹介されました。そのうち、肝がんのデータベースには15613名の結果が公開されており(2016年5月16日時点)、今回その中から、日本人データ300名の全ゲノムシーケンス(WGS)結果を共有いただきました。2009年から現在まで、NGSの進歩に加え、データ解析法の向上により、膨大なデータが得られており、そのデータ量は実に70T base(300 T byte)に及びます。エクソームシーケンスやターゲットシーケンスでは解析が難しいノンコーディング領域の解析や構造異常解析などWGSによる網羅的解析能を実例とともにご紹介いただきました。また、データ解析アルゴリズムにより結果に差異が見られるという課題を踏まえて制定されたガイドラインとともに、現在進行中の3000例のWGSデータ共有プロジェクトについても進捗をご紹介いただきました。これら膨大なデータがいかにして今後臨床で活用されていくのか期待が膨らみます。

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座長 理化学研究所 統合生命医科学研究センター
中川 英刀 先生
希少がん・難治がんの克服に向けた網羅的ゲノム解析

 外科医として膵頭部領域がんをはじめとした消化器がん症例に携われた経験から、解剖学的および病理学的観点も含めた背景を分かりやすく解説されました。膵頭部領域のがんのうち十二指腸乳頭部がんは、罹患率が非常に低い希少がんかつ難治がんであり、分子生物学的解明がより効果的な治療へつながると考えられています。日本および米国症例のエクソームシーケンスの結果、十二指腸乳頭がんの2つの型(腸型、膵胆型)において検出された変異の約50%が治療標的となり得る変異であったことから、今後個別化医療への応用が期待されています。さらに、今回新たに十二指腸乳頭がんに特長的な変異が見つかり、機能解析の結果、有力ながん抑制遺伝子でした。この遺伝子は、子宮頸がんならびに胃がんでも変異が認められているケースがあり、希少がん研究から他のがん種にも関連する新たながん抑制遺伝子が見つかることが示されました。また、十二指腸乳頭がんで検討されたがんゲノムの進化に関する結果もご発表頂きました。最先端テクノロジーを用いて組織からブロックをつくり、各領域に由来するDNAからエクソームシーケンスを実施、変異情報をマッピングした結果、がんの浸潤部にドライバー遺伝子変異が蓄積していることがわかり、再発や転移の治療の際に変異情報を把握することが重要であり、NGSの実臨床への応用の必要性を示唆されました。

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国立がんセンター研究所 がんゲノミクス研究分野
谷内田 真一 先生

Illumina’s Oncology Portfolio and Vision for the Future

 イルミナ米国本社オンコロジービジネスユニット担当者から、オンコロジー関連製品についてご紹介いたしました。イルミナではアクショナブルな遺伝子のマルチプレックス解析が可能なTruSight Tumor 15や、分解が進んだサンプルでも発現解析ならびに新規・既知の融合遺伝子検出が可能なTruSight RNA Pan-Cancerパネルなどを取り揃えており、またDNAからSNV, CNVなど、RNAから融合遺伝子が一つのパネルで検出できる製品を今後リリース予定であること、Liquid biopsyにおける取り組みなどをご紹介しました。

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Prithwish Pal, Ph.D, Sr. Market Development Manager – Oncology, Illumina, Inc.
卵巣がんホルマリン固定組織由来の超微量RNAを用いたシーケンスの可能性

 婦人科の臨床医である濱西先生は、今回はじめて次世代シーケンサーを利用されました。背景には、卵巣がんでは、症状が出にくく進行がんで見つかることが多いため、できるだけ早く発見できるようにする必要があること、さらにはいい治療法がなく新しい治療法の発見につながるのではないかという期待があります。また、卵巣がんの奏効率は10~15%で、この数値をあげるための指標を見つけることも重要です。これまで、卵巣進行がんの治療前と治療途中で免疫に関わる遺伝子の発現が増加していることをマイクロアレイで確認されており、より網羅的な解析方法を模索されていました。低侵襲手術の普及に伴い、腫瘍が小さく細胞数も少ないことから、NGSによるRNAシーケンスを選択されました。加えて、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織サンプル由来のRNAシーケンスということで、低品質サンプル対応の弊社TruSeq RNA Accessライブラリー調製キットをご利用いただきました。結果は、分解がかなり進んだFFPEサンプル(RIN1~)からでも十分発現解析が行えること、既知および新規の融合遺伝子も検出できることが証明されたことから、今後はこれらの結果を精査し、エクソーム解析なども検討されています。会場からは、FFPEサンプルの保存期間や状態について質問があり、ホルマリンに1週間程度浸かった状態や5年以上保存したサンプル、状態の分からない他施設からのサンプルも含まれるとのことでした。保存期間の長く、分解度の進んだFFPEサンプルからのNGS解析の必要性の高さを感じるセッションでした。

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京都大学 医学部 
濱西 潤三 先生

小児血液疾患に対する次世代シーケンサーを用いたクリニカルシーケンスの導入

 2009年から、検体を1箇所に集めて解析を行うcentral reviewを実施され、2015年までに1200例の解析が実施されました。これらの検体に対して実施されたエクソームシーケンスやターゲットシーケンスの結果、先天性骨髄不全症や先天性免疫不全症の原因遺伝子が同定され、この中には診断困難であった症例でも原因遺伝子が同定されたケースもあり、実例とともに網羅的遺伝子診断の有用性が示されました。また解析のみならず、実際に患者さんと接する臨床医にもわかりやすい報告書を作成されていること、検体取り違えが発生しないようcommon SNPも一緒にテストするといった工夫についてもご紹介いただきました。実臨床でNGSをどのように有効活用するか、ということは現在多くの場面で語られていますが、まだまだ課題も多いとされており、今回のお話は今後実臨床での導入を検討されている方にとって非常に参考になったようです。また、現在進行中の急性骨髄性白血病(ALL)での取り組みについてもご紹介されました。ALL罹患患者の5年生存率が、過去15年間日本ではほとんど進歩がなく、欧米に比べると10%低いという現実に対して、これは患者さんにとって不利益である、ということで治療反応性をより高精度に検出できる方法を開発されました。今後その有用性を確認していくとともに、RNAシーケンスによる融合遺伝子検出を予後のモニタリングに活用していく計画と述べられました。

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名古屋大学 医学部 
小島 勢二 先生

ご発表頂いた先生方、有難う御座いました。