第75回日本癌学会学術総会(10/6~8@横浜)では、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織検体からの変異解析に焦点を当て、FFPEサンプル解析の臨床応用への有用性についてランチョンセミナーでご講演いただいた他、展示ブースではFFPE検体取扱いに関するクイズを実施し、多くのお客様にご来場いただきました。
東京大学大学院医学系研究科 ゲノム医学講座の高阪真路先生に『新しいRNA-seq法により広がるFFPEの活用法』についてご発表いただきました。
以下に先生のご発表内容をご紹介します。
大型がんゲノムプロジェクトであるTCGA (The Cancer Genome Atlas)が完了し、現在蓄積されたデータの臨床への応用が次の課題となっています。臨床の現場で実施されているクリニカルシーケンスは、主にDNAゲノム解析が実施されています。一方で、融合遺伝子はバリアントが多彩でブレークポイントが一定でないためDNAゲノム解析により検出することは難しく、RNA解析による検出が必要とされています。例えば、肺腺がんの原因とされる遺伝子変異のうち、約10%が融合遺伝子で、この大部分は阻害剤の効果が高いチロシンキナーゼをコードしていることがわかっています。RNA解析においては、精度管理がきちんとできるか、微量検体からの解析が可能であるか、という課題があり、これらについての検証結果を肺がん25症例についてご紹介いただきました。
FFPEサンプルに弊社TruSight RNA Pan-Cancerパネルを用いて融合遺伝子の検出を試みた所、96%において既存の手法(RT-PCR, FISH)と同様の結果が得られました。加えて融合遺伝子の検出だけでなく、肺がん発生に関与するexon skippingを検出することができました。また一部症例については生検検体を使用した解析も実施され、FFPEサンプル解析での融合遺伝子検出結果と一致することがわかりました。これまではステージが進んだ患者さんに対する治療法の選択肢が少ないことが課題となっていましたが、手術検体サンプルからの融合遺伝子検出が可能であれば、融合遺伝子にアプローチする薬剤が将来的に開発された際、治療法の選択肢を増やすことでき、融合遺伝子解析の実用性が広がります。
さらに、肉腫症例のFFPEサンプル解析においても、既存の手法で検出された融合遺伝子を100%検出することができました。一部未診断であった症例については、新規融合遺伝子が見つかり、その後免疫染色により診断が確定されました。これまでは診断ができなかった症例でも、FFPEサンプルを使用した再解析が可能で、さらに有効な結果が得られることをお示しいただきました。
クリニカルシーケンスによりがんの特性を明らかにすることで、正しい診断、分類が可能になり、すべてのがん患者が受けるべき検査とみなされるようになるよう今後も幅広い分野の方と協力して、尽力されていく、という力強い言葉で締めくくられました。
聴衆の方からも多くのご質問がなされ、FFPEサンプルの活用について関心の高さが伺われたセミナーとなりました。
当日ブースでは、FFPE標本作製・保管方法に関する検定(クイズ)も実施し、多くの方にご参加いただきました。
FFPEサンプルからのゲノム解析を成功させるためには、FFPEサンプル取扱いの過程においてもそのポイントを理解することが重要です。そこで、日本病理学会の『ゲノム研究用病理組織検体取扱い規程』において定められているFFPE標本作製・保管方法に関する注意点およびイルミナが提供するFFPEサンプル解析ソリューションを解説したNGSミニハンドブックが完成しました。ぜひ、ご覧ください。