2018年の日本分子生物学会年会(11/28~30@横浜)は、「日本からオリジナリティーを発信しよう」をテーマに7500名の参加者を集め、盛会裏に終了しました。イルミナは、企業展示とランチョンセミナーに出展し人気を博しました。
ランチョンセミナーでは、座長に東京医科歯科大学の武部 貴則先生をお迎えし、演者には、日本におけるシングルセル解析分野の草分けから発展までを担われている京都大学 iPS 細胞研究所の渡辺 亮先生よりご発表いただきました。「シングルセルゲノミクスでせまる細胞の個性」という演題で、シングルセル解析で用いられる様々な手法の解説と NextSeq 550 システムを用いたシングルセル解析の最新の知見に加え、様々なサンプルや手法を用いて解析されてきたご経験から、実験上のアドバイスを含め、幅広いトピックで講演をいただきました。
近年、技術発展が著しいシングルセル解析を用いると、組織を構成する個々の細胞をまとめて解析することができ、得られた結果から臓器や組織を理解するという新たなアプローチが可能となります。
今回の講演では、Single cell RNA-Seq の応用として、細胞の分化過程を描写する時系列解析と少数の標的細胞を同定する細胞分類法について発表がありました。まず、iPS 細胞から腎臓細胞への分化過程の各細胞の転写状態を Single cell RNA-Seq で行い、遺伝子発現の経時変化を観察し、一部の分化細胞を捉える研究の紹介がありました。この研究の特徴は、遺伝子発現状態から目的の分化細胞を同定する戦略をとっており、従来行われてきたレポーター遺伝子の導入が不要である点です。この解析から分化誘導を促す因子の同定に至った成功例も示されていました。次に、世界で初めてiPS細胞由来の細胞移植が行われた加齢性黄斑変性症の事例では、シングルセル解析によって分化細胞の均一性の評価を行う手法が紹介され、将来の細胞治療における Single cell RNA-Seq の重要性について言及がありました。さらには Single cell RNA-Seq と SNP の情報とを活用することで、細胞によって使用されるアリルが異なる遺伝子群が存在することなど、Single cell RNA-Seq を用いて転写の基本原理を解析するアプローチが紹介されました。
そして、実際に Single cell RNA-Seq を行う上で注意すべき点が紹介されました。膵β細胞の再生研究過程で、培養細胞に比べ、組織由来の細胞を用いた場合は、死細胞の割合などの影響により高品質なライブラリー調製が困難で、プロトコールの改変が必要になったと具体例が示されました。
最後には、RNA だけでなく、DNA においても、Phi29 を用いたバイアスの少ない全ゲノム増幅を用いることで、個々の細胞におけるDNAコピー数を明らかにすることが、簡便かつ安価に実施できるという Single cell DNA-Seq の可能性についてもご紹介いただきました。
当日は立ち見もでる盛況ぶりで、多くの質問も頂き、近年急速に進化を遂げ、新たな発見を次々に生み出しているシングルセル解析が研究者の皆様から熱い視線を受けているということが強く感じられる会となりました。 ご発表の内容だけでなく、武部先生との軽快なやり取りも面白く、若手を代表するお二人の先生方によるランチョンセミナーを、ご参加の皆様に楽しんでいただけたのではないかと思います。