第76回 日本癌学会学術総会
イベント開催レポート

第76回日本癌学会学術総会(9/28~30@横浜)では、今注目されるがん免疫分野における腫瘍細胞と免疫システムとの相互作用についてランチョンセミナーでご講演いただいた他、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織検体からの変異解析に焦点を当て、最新のがんパネル製品ラインナップを展示ブースで紹介しました。

 

京都大学大学院医学研究科 腫瘍生物学 小川 誠司 先生に、がんの免疫回避に関わるメカニズムについてご講演いただきました。

 「まるで種の起源のように、がん細胞は環境によって選択され、クローン進化がおきている。がんの多様性を見る上でゲノムを調べるのが有効である」とダーウィンの進化論を引用しながら、次世代シーケンサーを研究ツールとして積極的に活用し、がんの起源を探っていく中から、がんの免疫回避に関わるメカニズムを明らかにした事例を紹介いただきました。

 再生不良性貧血は、自己反応性の細胞障害性T細胞(CTL)によって、血球の破壊と造血抑制が引き起こされる難病で、これらの患者さんの多くは、しばしばクローン性造血器疾患(AML/MDS/PNH)を併発することが知られています。後天的突発性再生不良性貧血の症例を数多くシーケンスした結果、6pUPD(6番染色体の短腕が同一の親由来の2倍体となる状態)によって、HLAクラスI領域が片アリルだけの発現となっていることが分かり、細胞障害性T細胞(CTL)の攻撃を回避して、選択的に増殖が起こっていることが分かりました。この仕組みは、がんが免疫を回避するメカニズムを理解する上で参考になります。

 ニボルマブ(オプチーボ)などの免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞が免疫細胞からの攻撃にブレーキを掛けている分子を標的にした薬剤です。卵巣がん末期の女性が免疫チェックポイント阻害剤の注射によって、劇的に腹水が減少し回復した著効例を目の当たりにされ、末期がんの患者様での助けることができるその有効性を知らしめられました。その一方で、こうした例は患者様の1~2%に留まり、がん免疫療法が機能するその詳細なメカニズムが何も分かっていない現実に直面し、薬剤を有効に活用するためには、もっと調べる価値があると考え、研究を進められました。

 成人T細胞白血病(ATL)は、ヒトT細胞白血病ウイルスⅠ型(HTLV-I)の感染により起こされる病気です。母乳からの母子感染によってHTLV-Iに感染することが多く、潜伏期間が20~30年と長く、その間に遺伝子異常のセカンドヒットが起きることで発症に至ると考えられていますが、どういう遺伝的変化が必要なのか分かっていませんでした。そこで、全ゲノムシーケンスを行った結果、ゲノムの構造異常が発生していることが判明しました。見つかってきた変異の90%がT細胞関連のシグナルに関与しており、さらにPD-L1におけるブレークポイントが3’-UTRに集中しており、細胞がクローン選択されていることが示唆されました。この3’-UTRは、発現制御に重要な場所であり、3’-UTR側が欠失すると、分解が抑制されて、PD-L1を高発現することになり、これによって免疫システムから逃れていることが分かってきました。

 こうしたPD-L1遺伝子の3’-UTRに影響を与えている構造異常は、さまざまながん種において見られるものの、その頻度はさまざまです。また、PD-L2においても同様の現象が確認されました。特に構造異常はATLにおいて顕著であり、その他のウイルス感染によって引き起こされるがん種でも見つかることから、PD-L1が抗ウイルス免疫においても重要な役割を持っている可能性も示唆されました。これらの研究から、PD-L1あるいはPD-L2の3’-UTR領域の構造異常を調べることによって患者様を層別化することで、免疫チェックポイント阻害剤の効果を高められる可能性が見出されてきたとまとめられました。

京都大学大学院医学研究科 腫瘍生物学
小川 誠司 先生
次世代のがん治療としての免疫療法
次世代のがん治療としての免疫療法

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