第42回日本分子生物学会年会
イベント開催レポート

福岡国際会議場で開催された第42回日本分子生物学会年会(12/3~5)に、イルミナはバイオテクノロジーセミナーで参加しました。2日に行われたセミナーでは、九州大学 生体防御医学研究所の大川恭行先生にご登壇いただきました。

 

九州大学 生体防御医学研究所の大川恭行先生に「マルチオミクス時代に向けた新規NGS技術の開発」という演題でご講演いただきました。

福岡国際会議場の定員180名の会場には、立ち見も含め190名以上の方にご来場いただきました。前半は大川先生がご自分の研究でNGSをどのように使用されてきたか、後半は先生のチームが開発された技術と今後の展望にについてお話をいただきました。

 

大川先生のグループは骨格筋再生での分化のトリガーとしてヒストンに注目され、14種の新たなヒストンタンパク質を発見されました。それらのバリアントがどこで発現しているかを確認するためにシングルセルでのRNA-Seqを行い、さらにH3.1の過剰発現とH3mm7のノックアウトの実験により、骨格筋幹細胞ではH3mm7にヒストンが入れ替わることで転写レベルが劇的に上がり分化が促進されることから、H3mm7が転写を調整しており、H3mm7が骨格筋の再生に必須であることを発見されました。シングルセル解析によって今まで見えなかったことが見えるようになるということを示され、また発現細胞かどうかを判断するのであれば1細胞あたり1000リードで十分だが、遺伝子発現の変動を見るにはCEL-Seq2で細胞数を少なくしてリード数を厚くするのが適している、というアドバイスもいただきました。

転写量が上がること=本当にタンパク量が増えたのか?それは分化にどう影響するのか?ということを理解していくためにはシングルセルでのマルチオミクスな解析が必要であり、現在のハイスループット世代シーケンサーのNovaSeqのスループットであればRNAだけでなくオミクス解析まで可能にするのではないか、というアイディアを持たれました。しかしChIP-Seqはシーケンスに至るまでのステップが多く操作も習得が必要で効率もあまりよくないため、シングルセルでのエピゲノム解析が困難である、という問題を克服するために、細胞の一分子を検出できる免疫染色に着目され、ChIP-Seqに代わる手法としてクロマチン統合標識法ChIL-Seqを開発されました。

ChIL-Seqは免疫染色とシーケンスを組合わせた技術のため、免疫染色で特異性の確認やイメージングとの比較も行える、1000細胞でも精度がよいなど、ChIP-Seqではできない他のメリットもあります。またオープンクロマチンやヘテロクロマチンでもChIP-Seqと同等の検出が確認できたとのご報告がありました。
操作はシンプルで、プレート上で細胞を固定透過処理して一次抗体で染色後、二本鎖DNA(T7プロモーターとTn5トランスポゼースの結合配列を付加)をつけた二次抗体等で処理すると、抗体周辺のゲノム領域に二本鎖がインサートされ、周辺ゲノム情報がT7 RNAポリメラーゼでRNAとして増幅されますので、これを用いてライブラリー調製をします。ChIL-Seqはタグを二本鎖にしたことでCITE-Seqと比べて、安定して特異性高く解析することができるとのことでした。

さらに本セミナーでの初公開として、ChIL-Seqにオミクスを足して同時解析するパイロット実験についても、ご紹介いただき、ChIL-Seq v2ではエピゲノムとトランスクリプトームの両方を増幅することができたことを示されました。今後は骨格筋中の幹細胞の位置までを捉えて、動態の全体像を把握するためには、空間オミクスの解析が必要になり、このような解析にNGSがますます必要とされるという示唆をいただきました。

当日の会場の様子

 

 

九州大学生体防御医学研究所
大川 恭行 先生