Q. MIG-seqによって、どのような研究を進めていますか
A. 熱帯林の植物の分類や集団遺伝、キノコの品種鑑定など多様な研究に携わっています
私は集団遺伝学での利用を目指してMIG-seqを開発しましたが、意外にも分類学の研究者からの共同研究のオファーをたくさんいただきました。また、世界の研究者から、MIG-seqの詳細の問い合わせやサンプル分析依頼が来ています。
私自身、現在、熱帯林のプロジェクトに参加して、何万もの植物のサンプルをMIG-seqで調べています。熱帯林の植物はまだ十分にわかっていなくて、種の同定は分類学の専門家でも難しい。一方で、環境破壊などでその植物がなくなっていくので、研究のスピードが重要です。
分類学の研究者たちは頭の中に膨大な量の形態の情報があって、見つけた植物の形態から種の同定をしていきます。ただ、熱帯で採取した植物にはまだまだ未知の種や同定困難な種が含まれていますし、従来の分析法によってDNAのバーコード領域を読んでみても、ほとんど差がないことがよくあります。このように決め手がないところに、MIG-seqを使うと3日で系統樹が描けると好評です。
今、手元に約4万のサンプルがあり、その中から約1000種の新種が見つかると予想されています。例えば、非常に種多様性が高いことがわかりつつあるベトナムで採取されたサンプルの中には、形態的に同じ種と扱われていたものの中に別種が含まれていることも判明しました(隠蔽種)( 関連論文 2, 3 )。同じような例が、生物多様性のホットスポットとして知られているニューカレドニアで採取したサンプルからも見つかっています。そうなると、今度は現地で花の形まで詳しく観察しようということになります。SNPのデータを分類学に即座に返すことで、さらに新しいことがわかるようになるのです。カッコイイ表現をすると、生物多様性の再発見ができるということです。
また、日本で品種開発された食用のキノコについて、日本産であることを証明するためにMIG-seqによるDNA検査が使えないかと委託を受けて研究を進めています( 参考 )。
この研究方法は、日本全国にある伝統野菜の系統の歴史的な研究や保存、ブランド化や地域振興にも使えると考えています。MIG-seqを技術移転して、各地で調べてもらえばいいなと。地域の遺伝資源の保全に役立てるとすれば、もともとやりたかったことにぴったり合っているなと思っているところです。
MIG-seqは扱うフラグメントが小さいため、押し葉標本のサンプルや考古学のようなサンプルが多く取れない分野でも活かせるでしょう。もちろん昆虫の標本にも使えます。
研究室では、MIG-seqでさまざまな生物種のサンプルを扱うことで、サンプルの扱い方や分析方法などのスキルが上がっていっています。生物によって多様性のレベルが異なるので、データを取り出すときの処理を少しずつ変え、クローンが入り込んでいる種も見分けて、再現性が取れるように工夫しています。