アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 イルミナ株式会社共催シンポジウム

クラウドが加速するゲノミクス

2019年7月31日(水)、東京 目黒のアマゾン新目黒オフィス内セミナールームにて、AWS/イルミナ共催シンポジウム「クラウドが加速するゲノミクス」を開催しました。「Amazon Web ServiceやDRAGENを用いたゲノムDNAデータの効率的な活用法」をテーマに、国内外のゲノム研究およびゲノムビジネス経営をされている3名の方から、最新の知見と今後の展望をお話しいただきました。

 

シンポジウム全体の総括として「ゲノミクスもクラウドも日々変化しており、キャッチアップしていくのも困難。日本の忙しすぎる働き方を見直し、意識して勉強する時間を作る必要がある」との結論が導かれ、「完成するまで様子を見る、権威ある教科書ができるのを待つ」のではなく、常に最適な技術を取り入れていく努力が肝要との学びが共有されました。150名を超える聴衆の中、参加者の方からの質問も多く、盛況な会となりました。

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『米国スタートアップが牽引するクラウドゲノミクス市場』
AWAKENS, Inc. 松田 祐太 先生

 学生時代から一貫してヒトゲノムの解析に携わられてきた松田先生は、アメリカの消費者向けゲノム解析サービス23andMeに刺激を受け、研究からビジネスの道を進まれました。渡米して創業されたAWAKENS, Inc.では、Illumina Acceleratorなどの支援を受け、一般消費者が自身のゲノム情報をアップロードして様々な情報を得る、Genomelinkなどのサービスを展開されています。ご講演では、アメリカでの遺伝子検査市場の特徴と、ゲノミクス市場におけるクラウド利用の状況を解説されました。

 最初に、「アメリカは既に約4000万人が、SNPジェノタイピングアレイを使用した消費者向け遺伝子検査を受けている」という事実を示されました。日本での約20万人から大きな開きがある要因として、移民の国アメリカでは家系情報、祖先情報の解析が人気であること、親戚の発見や自身の出自の探索を趣味とする方が多くいることなどを挙げられました。次に最近のトレンドとして、祖先情報解析から疾患リスク解析に関心が移りつつあること、遺伝子検査で集まったゲノムデータの、研究への二次利用サービスが多く出てきたことなどを紹介されました。

 続いて、こうした数千万人のゲノムデータや付随するアンケートデータなどの解析、共有などはクラウドに支えられていることを前提として、アメリカのゲノムビジネス企業が考える、クラウド利用のメリットを挙げられました。柔軟性や簡便性、高機能性などと合わせて、セキュリティー面でも、HIPAAGDPRなどの規制に対応したプラットフォームを提供しているクラウドを利用する方が、結果的に安全である、との声が多かったのに対し、日本で取られた本シンポジウムでの事前アンケートでは、「クラウドはセキュリティー面で不安」との声が45%を占めたことを対比され、その後の質疑では国民の意識に関しても議論が交わされました。

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AWAKENS, Inc.
松田 祐太 先生
『ゲノムデータおよび表現型データの共有によるゲノム医療の研究開発の加速と診療へのシフト』 東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 荻島 創一 先生

 荻島先生には、「ゲノムにもとづく医療」という観点から、データ共有の必要性、重要性と、そのためのゲノムデータの標準化についてお話いただきました。

 最初に、遺伝情報に基づいて一人ひとりに最適な医療や疾患予防法を提供する「個別化医療」および「個別化予防」の概念について解説され、イギリスフィンランドなど海外の事例と共に、日本でのゲノム医療実現に向けた取り組みを紹介されました。ゲノム情報を医療に役立てるためにはデータベースの整備が重要であり、特に症例数の少ない希少疾患で、同様の他症例の情報を参照するにはデータの共有が鍵となることを強調されました。

 次に、日本における個別化予防を精力的に進める東北メディカル・メガバンク計画の進捗について共有され、大規模コホート参加者の膨大な情報を保持する統合データベースを紹介されました。ゲノムにもとづく医療の推進には、正確な病型を把握し、医療情報に基づき標準化された疾病分類(ICD)や用語(Human Phenotype Ontology, HPO)を基に、分類された状態にあることが重要と述べられました。

 最後に、今後もGA4GHなどの枠組みでゲノムデータの国際的な標準化を進めること、膨大なデータを移動させて共有する「Data sharing」から、利用者がデータをアクセスしに行く「Data visiting」へシフトすることが必要で、こうした動きはクラウド利用を前提としており、今後もクラウドへの移行が進むとの見通しを示されました。

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東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 荻島 創一 先生

『AWSによるヘルスケア・ライフサイエンス分野の取り組み』 アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 遠山 仁啓 様

 日本国内でAWSを利用しているライフサイエンス関連企業、製薬企業、医療機器メーカー、医療機関などを紹介され、この数年でのクラウドの普及を示されました。データの長期保存を要する医療機関などに向けて、アクセス頻度に合わせてAmazon S3のレベルを使い分けるなど、上手な使い方とともに、会場から質問が多かったセキュリティーに関しては、「日本におけるプライバシーに関する考慮事項に照らした AWSの利用」などの参考資料を紹介されました。

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アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 遠山 仁啓 様
『超高速ゲノム解析実現とイルミナインフォマティクス -DRAGEN(ドラジェン)』 イルミナ株式会社 癸生川 絵里

 次世代シーケンス(NGS)データの超高速二次解析を実現したデータ解析ソリューション、DRAGENについてご紹介しました。DRAGENは、AWSを基盤とするイルミナのクラウドデータ解析環境BaseSpace Sequenc Hub上でのソフトウェア、オンサイトサーバーの二つの形態でご提供しています。世界での活用例のご紹介を含めた本講演のDRAGENの内容はこちらからご覧いただけます。

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イルミナ株式会社 癸生川 絵里

『大規模ゲノムデータとクラウドによる新しい知識探索プラットフォームの形』 国立がん研究センター 白石 友一 先生

 最初に、がんゲノム研究、がんゲノム医療のこれまでの流れを、3つのフェーズに分けてレビューされました。第一期は、次世代シーケンサーの登場から一般化までの時期とされ、次世代シーケンサーの技術革新により、数百サンプルの規模でも新規がん遺伝子が次々と発見されたことをお話しされました。また、第二期をThe Cancer Genome Atlas(TCGA)などの数千、数万サンプル規模の大規模プロジェクトが始まった時期とされ、それら公共データを解析する中で、ファイルのダウンロード、QC、サンプルシート作成などの作業工程を確立するのに、多大な労力を要したことをお話しいただきました。そのご経験などから、「公共データがあっても、結局大規模ラボにしか大規模解析ができない」との課題を示されました。それに続く第三期では、国家レベルで数十万、数百万規模でのゲノムプロジェクトが動いており、もはやクラウドを基盤とした「Data visiting」が当たり前となること、そのためにもデータの標準化が重要であることを確認されました。

 次に、ご自身のがんゲノム研究、がんゲノム医療におけるクラウド利用への試みを紹介されました。International Cancer Genome Consortium(ICGC)のデータの中でも、Genomic Data Commonsにある公共全ゲノムデータの標準化や、公共データベースに公開されている10万サンプル以上のRNA-Seqのデータ解析などの膨大なデータを扱うプロジェクトにおいて、オンプレミスサーバーよりもAWSなどのクラウドを使う方が、労力、コストなどの面で効率的であると話されました。

最後に、クラウドをゲノム解析に利用するメリットを5つ挙げられましたが、「新しいサービスが次々に出てくるので、何より使うのが楽しい」と強調されたのが印象的でした。

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国立がん研究センター 白石 友一 先生
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パネルディスカッション