最先端ゲノムセッション

最先端ゲノムテクノロジーセッションレポート

次世代シングルセルマルチオミックス解析

 渡辺先生は、次世代シーケンサーを早くから使いこなしておられ、ゲノム解析、エピゲノム解析、シングルセルトランスリプトーム解析などを併用するマルチオミックス解析に取り組まれています。今回はfibroblast からiPS細胞になり、iPS細胞から分化する間の多数のシングルセルからのトランスクリプトーム解析についてご講演をいただきました。得られたデータをバイオインフォマティクス、独自アルゴリズムを駆使したアプローチで解析されています。これまでは時間軸で多数の細胞から抽出してRNAの発現解析を行われていましたが、シングルセルトランスクリプトーム解析により細胞1つ1つの発現プロファイルから生物学的な時間軸上を明らかにし、生物学的な時間軸で並びなおすことで、より分化の過程を詳細に解析することが可能となります。通常の時間軸から生物学的な時間軸へのパラダイムシフトを感じさせるプレゼンテーションは圧巻でした。今後1万細胞のシングルセルトランスクリプトームを計画されていらっしゃるとのこと、これまでの100倍のシングルセルのデータによって更に詳細な解析が可能となることが期待されます。まさしく最先端ゲノムテクノロジーを駆使したご講演でした。

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座長 京都大学 iPS細胞研究所
渡辺 亮 先生
iPS 細胞、NGS、ゲノム編集を用いた遺伝子治療応用

 三種の神器になぞらえて、堀田先生の ”研究の” 三種の神器「iPS細胞」、「次世代シーケンサー」、「ゲノム編集」を駆使した研究についてご講演いただきました。1つ1つの神器が研究アプローチに変革をもたらす技術であり、3つを組み合わせて使うことで、より強力な研究アプローチが可能となります。堀田先生は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者から作製したiPS細胞においてTALENやCRISPRといったゲノム編集技術を用いて病気の原因遺伝子であるジストロフィンを修復することに成功されました。ご講演では、論文からは知ることのできない実験上での困難、例えば、ゲノム編集技術に潜むオフターゲット効果の問題や、どのように回避したかという実践的なお話が伺うことができました。三種の神器は非常に強力ではあるが使いこなすためには熟練が必要だということも強く印象に残りました。次世代シーケンサーを駆使することでゲノム編集技術をしっかりと評価することができ、更には、作製したiPS細胞の様々なプロファイルを取得することで更に深い研究ができます。次世代シーケンサーを用いることでiPS細胞の品質も管理できるので将来の医療応用の可能性も示唆されました。とても夢のある最先端の研究に、参加の方々から多数の質問が寄せられ、非常に盛り上がったセッションでした。

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京都大学 iPS細胞研究所
堀田 秋津 先生
Nextera テクノロジーを応用したライブラリー調製と解析ワークフロー

 イルミナ シニアアプリケーションコンサルタントから、弊社の持つ画期的なライブラリー調製試薬Nexteraについて、豊富な経験から得たNexteraの試薬のバイアスなどの特性と利用時のノウハウをまとめて詳しくご紹介しました。また、Nexteraの最新の応用事例Smart-Seq2, ChIPmentation, ATAC-Seq, scATAC-Seqについてもご紹介いたしました。Smart-Seq2 はSMARTerテクノロジーによりシングルセルからの完全長のトランスクリプトーム解析が可能となります。ChIPmentationは、わずか10,000個から100,000個の細胞からChIP-Seqができ、ATAC-SeqではNexteraの特性を利用し、オープンクロマチン領域を把握することができます。またscATAC-Seqは、シングルセルにATAC-Seqを拡張しています。Nexteraの持つ反応効率の良さは微量な解析を実現し、様々な解析への応用を可能にしています。

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イルミナ株式会社 アプリケーションコンサルタント
寺倉 伸治
環境DNA 解析のインパクト

 「環境DNA」という新しい分野についてご講演いただきました。次世代シーケンサーの持つ圧倒的なスループットは、様々な分野に応用されてきましたが、そのスループットの高さを利用して環境中のDNAを解析するという新たな分野での応用が始まっています。岩崎先生は、非常に幅広い分野で次世代シーケンサーを活用され成果を出されていますが、今回は、その中から海の環境DNAを中心にご講演いただきました。岩崎先生は3万種類の魚のミトコンドリアDNA配列をまとめたMitoFishを整備し、水5リットルから魚のミトコンドリアDNA配列をPCR増幅し次世代シーケンサーで解析することで水の中に存在する、または存在した魚由来のミトコンドリア配列を網羅的に解析、分類されました。実証実験で沖縄美ら海水族館を解析された際には、10リットルの水をろ紙で濃縮し61種類の魚の97%を正確に同定することに成功されています。これまで微生物でのみ可能であったアンプリコンメタゲノム解析が大型の生物でも可能なことを実証されています。ご講演では、論文では知ることのできないPCR断片長の検討や条件検討等についても触れていただきました。今後は、他の生物種への応用も視野に入れ、更に開発を進められると述べられ、これまで膨大なコストが必要だったメタゲノム解析が低コストで実現でき、様々な可能性が考えられます。会場からも多くの質問が出たセッションでした。

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東京大学 大学院理学系研究科
岩崎 渉 先生
10x Chromium genome and exome solutions: Long range genomic information for phasing, structural variant detection, and de-novo assembly

最先端ゲノムテクノロジーの最後のセッションは、米国10X Genomics社の Joseph Amanからご講演いただきました。同社の新製品Chromiumシステムはゲノム解析、エクソーム解析、シングルセルトランスクリプトーム解析のためのライブラリー作製が可能ですが、今回はゲノム解析を中心にお話しいただきました。わずか1 ng から仮想ロングリード解析を可能にする同システムによりヒトゲノムのPhasingや高品質の de novo アセンブルが可能となります。今回のセッションでは、Chromiumシステムによるヒトゲノムの最新の解析結果が示されました。ヒトゲノムの様々な領域を対象として、通常のPCR Freeライブラリー作製によるショートリード解析とバイアスの程度を比較したところ、Chromiumシステムで作製した仮想ロングリードも同等の低バイアスな解析が実施できていることが示されました。また仮想ロングリードを用いることで融合遺伝子検出やより複雑なコピー数多型が明快に検出できているデータも示されました。フェージングや de novoアセンブルに興味を持つユーザーは多く、10X Genomics社の技術を用いることで、簡単に低コストで、高品質なデータが得られることがわかり、講演後も演者の周りに質問の列ができました。

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Joseph Aman
Field Applications Scientist, 10X Genomics, Inc.