第28回日本臨床微生物学会総会(2017/1/20~22 長崎)は盛況の内に終了しました。イルミナは、ランチョンセミナーと企業展示に出展し、ご来場の研究者の方々と貴重な情報交換をさせていただきました。
九州大学 康先生を座長にお招きし、東邦大学 石井先生より『次世代シークエンサーによる微生物検査のポテンシャル』というタイトルでご発表いただきました。
石井先生は講演の中で、「NGSを導入するだけでなく、導入後の各診療科の連携を強めることがNGSの院内での利用拡大に重要である。」という結論を示されました。サンプル採取の段階から各診療科が連携することにより、サンプル採取から解析までスムーズに行うことができ、信頼性の高い結果を出すことができます。一度、各診療科の連携が構築されると、多少コストがかかっても必要な検査として定期的に依頼を受ける場合もあり、NGSが有用であることの認知が進んでいきます。東邦大学では、まだNGSが殆ど微生物検査に用いられていなかった2013年からNGSを導入し、これまでに、のべ100検体以上を解析してこられました。主に病原性の全ゲノム解析による分子疫学調査とメタゲノム解析による難培養性微生物の検出の2種類を行っています。
NGSを使用すると、正確なシーケンスデータを大量かつ安価に得ることができます。さらに微生物の全ゲノム解析に用いると、内在性遺伝子の変異やプラスミドのコンパティビリティーを確認することもできます。リピート配列のアセンブルが困難な領域も存在しますが、昨今では微生物の分子疫学データベースが充実しています。微生物全ゲノム解析で得られたコーティング配列をアップロードすると、簡単に菌種の同定と薬剤耐性遺伝子の有無を調べることができます。
1つ目の実例として、レンサ球菌の全ゲノム解析結果を紹介されました。定期的に院内感染が確認されている病院で、これまでに検出されたレンサ球菌の全ゲノム解析を実施されました。その結果、レンサ球菌株間で系統は同じものの、遺伝子の一部に変異が発生していることが明らかになりました。これにより、院内感染を引き起こすレンサ球菌株は、病院内に常在し、変異を獲得しながら、定期的に増殖した結果、感染を引き起こしていることを示唆されました。一塩基単位で解析できるNGSは、最適な病院感染対策を実施する上で重要な情報を提供しています。
2つ目の実例として、疣贅サンプルのメタゲノム解析を紹介されました。サンプル採取から時間が経つと菌叢に変化が生じるため、対象サンプルは東邦大学が独自に開発した手順により採取を行っています。採取前にラボのスタッフが連絡を受け、サンプル採取にはスタッフが立ち会い、採取後速やかにRNAの分解を防ぐ溶液(RNAレーター)にてサンプルを保存します。サンプルからDNAを抽出後、シーケンスを行い、配列データの中から宿主となるヒトゲノムを除去した後、公共データベースに対して相同性検索を行い、菌種の同定を行いました。その結果、疣贅サンプル中に存在する培養法で検出できなかったレンサ球菌を、NGSを用いたメタゲノム解析で検出することができました。薬剤耐性試験を実施することで、適切な抗菌剤を選択することに役立っています。
従来の細菌検査法が今後NGSを利用したものに置き換わり、更なる技術進歩が理想の細菌検査法を実現するだろうと、将来への期待を述べられました。
イルミナ次世代シーケンサーMiSeqシステムを展示し、微生物ゲノム解析に関わる情報を提供しました。来場された方が特に興味を持った資料は、こちらからも入手できます。
感染症やウイルス研究において、イルミナ次世代シーケンサーが用いられた論文の要旨をまとめた冊子