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未知への探検:次世代シーケンサーが支える多様な生物種の研究

NovaSeq 6000システムはOISTの研究者による多種多様な海洋および陸上生物種のシーケンスと研究を実現します。

未知への探検:次世代シーケンサーが支える多様な生物種の研究

Exploring the Unknown: Next-Generation Sequencing Supports Species Research

はじめに

地球上にはいくつの種が存在しているのでしょうか?これは研究者たちが答えを見つけようと必死に取り組んでいる根本的な質問です。200万の異なる種がすでに記載されていますが、この世界の驚異的な多様性を考えると、まだ発見されていない植物、昆虫、微生物がある可能性が大いにあります。陸上と海洋の多種多様な種の識別、解析、記載に協力することは、沖縄にある沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者たちの目標の1つです。

それには多大な労力を伴います。海洋の場合、アメリカ海洋大気庁(NOAA)は、海の広さと深さを考慮すれば、これまでに分類されて記載された海洋種は全体の10%にも満たないと考えています。1 現在の科学者たちは、新しい方法を用いると、この世界には10億~60億程度の生存種がいると推定しています。これは科学の教科書に記載されているものの千倍です。2

沖縄にあるOISTのDNAシーケンシングセクション(SQC)の現マネージャーである新垣奈々博士と元研究支援スペシャリストである小柳亮博士。

次世代シーケンスが研究に情報をもたらす

新垣奈々博士はOISTのDNAシーケンシングセクション(SQC)のマネージャーです。SQCチームでは、ハイスループットのNovaSeq 6000システムを用いて脊索動物やその他の海洋生物の進化ゲノム学の研究のためにシーケンスを行っています。SQCチームはOISTのコアラボとして、OISTの動物学者や生物学者たち、そして世界中の研究者たちにシーケンスサービスを提供しています。

「私たちが提供しているサービスはde novoシーケンスからリシーケンス、RNA-Seq、ChIP-Seq、アンプリコンシーケンスに及びます」と新垣博士は言います。「私たちはさまざまな研究ユニットと協力して、ヒトデ、ギボシムシ、真珠貝、タコ、イカ、海藻類など多種多様な海洋無脊椎動物に関する研究をサポートしてきました。」

彼らが海洋生物に注目しているのは偶然ではありません。OISTは、佐藤矩行教授が主宰する高い評価を受けているマリンゲノミクスラボの本拠地です。「日本には海洋生物学研究で長きにわたる伝統があります」と佐藤教授は言います。「日本中にはさまざまな臨海実験所があり、研究者たちはその周辺に生息するさまざまな生物について多くのの情報を発見してきました。現在研究者たちは、これらの生物のゲノムシーケンスを使用して今後の研究を加速させています。」

沖縄の生物学的遺産の理解と保存

OISTの使命の1つは「沖縄の持続可能な発展に寄与する」ことができる研究を実施することです。3 この目的に向け、新垣博士とそのチームは沖縄の生態系と産業に直接的に影響を及ぼす複数のプロジェクトに取り組んでいます。「現在、沖縄の島の周辺や島内で確認される生物に関するde novoシーケンスプロジェクトを複数手がけています」と新垣博士は語ります。「これらの生物の中には、動物の進化の過程に関する研究をサポートするために重要なものがあります。また沖縄の生態系に対してより大きな影響を与えるものもあります。」

ラボの主なプロジェクトの1つでは、一般にはオニヒトデとして知られるAcanthaster planciのゲノムのシーケンスが行われました。この捕食性のヒトデ種は、熱帯低気圧と並び、太平洋全体でサンゴ礁に損傷を与える主な原因の1つであると考えられています。4,5 「オニヒトデ種はサンゴ礁の天敵です」と話すのはSQCチームの元研究支援スペシャリストである小柳亮博士です。「サンゴ礁を守るには、サンゴ礁がどのように、そしてなぜこれほどの損傷を受けるのかを理解することが重要です。ゲノムを調べたところ、このヒトデの集団遺伝学に非常に興味深い点を見つけました。」

オニヒトデはイシサンゴを常食とします。「大発生」中には多数のヒトデが1つのサンゴ礁に集まり、破壊します。科学者たちは、どのように、そしてなぜこれほどの数が一カ所に集まるのか分かりませんでした。SQCが提供する次世代シーケンス(NGS)サービスにより、佐藤教授らはヒトデの間の相互コミュニケーションを可能にする遺伝子産物を特定することができ、今後の生物的防除戦略の新たな標的が得られました。

「シーケンスコストの低下によりさらに多くのOIST研究者が私たちのシーケンスサービスを利用するようになっており、分子生物学の観点から動物門を研究することが可能になっています。」

SQCチームはその他のサンゴ種のゲノムのシーケンスも行いました。「サンゴゲノムを調べることで、サンゴがなぜ広い地域で突然消滅するのかが分かります。おそらくその原因は温度です」と、小柳博士は言います。「シーケンスから得た遺伝的背景やその他の情報を理解することで、私たちはこれらの生物についてより深く学ぶことができるのです。」

OIST研究者たちはSQCとの協力で、ハブ毒の進化6、健全な海洋生態系の保持に役立つ重要な単細胞生物Symbiodinium(共生性の渦鞭毛藻の一種)の光合成7、そして食用海藻である褐藻類のゲノミクス8に関する驚くべき発見をしました。現在の研究では、現地の魚、海藻、陸上動物、そして沖縄原産の小さな柑橘類シークワーサーのシーケンスに重点的に取り組んでいます。

「これらの種はすべてこの島にとって非常に特別な存在です」と、小柳博士は説明します。「これらは私たちの文化の一部です。これらのゲノムに関するデータは、種とその進化の物語を理解する役に立つでしょう。沖縄で栽培されるものであるため、ゲノムを理解することは農業にとっても重要です。ゲノムデータは、生産性の向上、栽培の改良、病気に対する抵抗性の向上の改善を可能にするでしょう。」

NovaSeq 6000システムを用いた未知への探検

シーケンスはかつて時間と労力のかかるものでした。基本的なゲノム解析に数週間もかかりました。「NGSが使えるようになるまでは、サンガー法を用いて研究を実施していました。サンガー法では限られた数の遺伝子だけがターゲットです」と新垣博士は述べました。「この技術的限界のため、検証できなかった仮説がたくさんありました。」

新垣博士は、NovaSeq 6000システムにより業務に良い変化があったと考えています。このシステムによりシーケンスコストが大幅に削減され、非常に大きな柔軟性と正確さが得られました。NovaSeq 6000システムの登場前では、チームが今実施しているシーケンスプロジェクトは考えられなかったことであり、それにかかるコストや時間は法外なものとなったでしょう。

「NovaSeq 6000システムのおかげでスループットが向上し、解析が非常に高度になりました」と小柳博士は言いました。「以前は20 Mbpしか得られませんでしたが、今はゲノムの400 Mbpを簡単に完了できます。私たちがシーケンス結果を短時間で得ることができるようになったため、佐藤教授は他の専門家と共同研究することなくプロジェクトを完了できました。サンガー法では何年もかかっただろうことが、今ではNGSを使って数日でこなせます。」

小柳博士はNovaSeq 6000システムの改良されたインターフェースの使いやすさと柔軟性を称賛しています。「カセットにすべての試薬が収納されているため、取り扱いがかなり簡単になりました」と小柳博士は続けます。「ミスをする心配がありません。NovaSeq 6000システムではランタイムが短縮されるため、シーケンススケジュールの作成が簡単です。作業をするのに長時間待たないで済むのです。NovaSeq 6000システムは非常に効率的です。」

しかしながら、SQCチームにとって最も重要なNovaSeq 6000システムの特徴は高いデータ品質です。このシステムのおかげでリファレンスゲノムのシーケンスなしでも、より少量のデータでも、高い解像度で解析を行うことができます。「私たちは同じ予算内でより多くのサンプルを解析できるようにするために、シーケンスコスト削減を目指してNovaSeq 6000システムを使い始めました」と新垣博士は述べました。「でもその他にもたくさんの利点がありました。NovaSeq 6000システムは私の研究になくてはならないツールです。自分の役割を果たして研究者の目標達成の手助けとなることによって、このような重要なプロジェクトに関与できるのは素晴らしいことです。」

前進する

現在のSQCの研究では、太平洋の沖縄などで確認される「スギ」という魚のシーケンスが行われています。博士たちは、日本内外の新しい種や興味深い種の記載の一助となるという役割を果たしながら、沖縄原産の多種多様な海洋生物と陸上生物種のシーケンスを続けていくつもりです。

「NovaSeq 6000システムによりOISTの研究は変化しつつあります」と小柳博士は言いました。「ハイスループットによりデータを迅速に解析できるようになりました。シーケンスコストの低下によりさらに多くのOIST研究者が私たちのシーケンスサービスを利用するようになっており、分子生物学の観点から動物門を研究することが可能になっています。」

「今後の水産養殖研究でNovaSeq 6000システムが果たすであろう役割を考えると本当に心が躍ります」と新垣博士は続けます。「このエリアには未開の部分が多く残されているため、新発見の可能性はまだ非常にたくさんあります。」

小柳博士もこれに同意します。「シーケンスされていない種はまだ多数あり、ここにも世界中にも調べなければならないことがたくさんあります」と小柳博士は述べました。「私たちが提供したシーケンスデータから研究者たちがどのようなことを学んだかを聞くのは非常に刺激的です。NovaSeq 6000システムはいつも何か思いもよらないことを見つけてくれるようです。」

このインタビューに登場するシステムについての詳細は、以下のリンクからご覧いただけます:

NovaSeq 6000システム

参照文献

National Ocean Service.How many species live in the ocean? アメリカ海洋大気庁ウェブサイト。https://oceanservice.noaa.gov/facts/ocean-species.html.2019年1月30日アクセス。

Larsen BB, Miller EC, Rhodes MK, et al.Inordinate Fondness Multiplied and Redistributed: the Number of Species on Earth and the New Pie of Life.Q Rev Biol.2017; 92(3):229−265..

沖縄科学技術大学院大学基本方針・ルール・手続きライブラリ:ミッション・ステートメントOISTウェブサイトhttps://www.oist.jp/policy-library/1.22019年1月30日アクセス。

Hall MR, Kocot KM, Baughman KW, et al.The crown-of-thorns starfish genome as a guide for biocontrol of this coral reef pest.Nature.2017; 544: 231-234.

De’ath G, Fabricius KE, Sweatman H, et al.The 27-year decline of coral cover on the Great Barrier Reef and its causes.Proc Natl Acad Sci USA.2012; 109: 17995-17999.

Shibata H, Chijiwa T, Oda-Ueda N, et al.The habu genome reveals accelerated evolution of venom protein genes.Sci Rep.2018; 8:11300.

Shoguchi E, Beedessee G, Tada I, et al.Two divergent Symbiodinium genomes reveal conservation of a gene cluster for sunscreen biosynthesis and recently lost genes.BMC Genomics.2018; doi: 10.1186/s12864-018-4857-9

Nishitsuji K, Arimoto A, Iwai K, et al.A draft genome of the brown alga, Cladosiphon okamuranus, S-strain: a platform for future studies of ‘mozuku’ biology.DNA Res.2016; 23:561-570.