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eDNAシーケンスは生物多様性の変化を見る優れたレンズとなる

NGSとeDNAメタバーコーディングにより、研究者はさまざまな生態系を正確に監視できます。

eDNAシーケンスは生物多様性の変化を見る優れたレンズとなる

eDNAシーケンスは生物多様性の変化を見る優れたレンズとなる

はじめに

Michael Bunce教授は、オーストラリアのパースにあるカーティン大学の分子生物学者です。研究分野は多岐にわたりますが、プロジェクトはすべて、劣化したDNAの抽出、増幅、および解析を中心に展開されています。同教授のTrace and Environmental DNA(TrEnD)ラボでは、古代DNA、漢方薬、ワイン、野生生物、海水など、幅広いサンプルの遺伝子解析研究を行っています。

過去10年間、Bunce博士は次世代シーケンシング(NGS)を用いて、すべての生物が周囲の環境に放出するDNAである環境DNA(eDNA)を解析し、生態系の生物多様性を研究してきました。同教授のチームは、DNAバーコーディングとハイスループットNGSの組み合わせであるメタバーコーディングを使用して、eDNAサンプルを解析し、経時的な生態系の変化を監視しています。チームによる最近の研究では、海洋サンプルの生物多様性の評価や、採鉱および石油探査後の在来生態系の回復状況の評価が行われました。

iCommunityは、Bunce博士にインタビューし、eDNA研究、環境および生物多様性の調査におけるその価値、そしてさまざまな生態系のサンプルを研究するためにNextSeq 550、MiSeq、iSeq 100システムをどのように活用しているかについて話を聞きました。

Michael Bunce(PhD)氏は、ウエスタンオーストラリア州パースのカーティン大学の分子ライフサイエンス学部の教授であり、TrEnDラボの責任者です。

Q:古生物学や生態学など、従来、フィールド生物学とみなされていた領域に分子生物学技術を適用し始めたのはいつ頃ですか?

Michael Bunce(MB): 2003年、私は同僚とともに、先史時代のシベリアの永久凍土層とニュージーランドの洞窟堆積物からDNAを抽出し、シーケンスに成功したことを示す論文を発表しました1。これは、何世紀も前にこの地域に存在していた動物を特定するために化石が不要であることを示す画期的な研究でした。これらの動物が残したDNAを検出し、そのデータを使用して、植物や動物がどのように経時的に変化してきたかを研究することができます。

Q:NGSはあなたの研究にどのような影響を与えましたか?

MB: 2000年代初頭に古生物学研究を実施した頃は、DNAの解析は困難でした。サンプルからDNAを抽出し、それをバクテリアにクローニングし、次にサンガーシーケンシングを用いて細菌プラスミドをシーケンスしました。細菌を1つずつシーケンスする必要がありました。それは非常に時間がかかり、コストも高く、しかもサンプル中に存在する種を十分に解析することができませんでした。

NGSは、環境サンプルを簡単かつ正確に分析し、そこに存在していた種を特定する能力において極めて重要な役割を果たしてきました。バクテリアクローニングとサンガーシーケンスでは、各サンプルのDNAスナップショットが限られており、通常、サンプルあたり50~100リードしか得られませんでした。NGSとその大規模な並列シーケンスなら、サンプルあたり数万から数十万のリードを解析でき、複数の種が含まれる環境サンプル内の集合体を強力に解析することができるようになりました。過去10年間、NGSベースのメタバーコーディングを広範に活用し、多くの異なる生物学的基質を解析してきました。TrEnDにおける私たちの仕事は、ゲノムのシーケンスよりも、細菌以外の生物群集の構成と変化を理解することに重点を置いています。

「生物種間でDNAを比較すると、多くの保存領域があります。しかし、これらの高度に保存された領域の間には、種を区別し、分類群を特定するバーコードとして使用できる非常に変動性の高い領域があります。」

Q:eDNAとは何ですか?また、生物多様性を測定するためにどのように使用できますか?

MB: すべての生物は、DNAを環境に排出します。これらの遺伝子の「足跡」により、特定の環境に存在する、または存在したさまざまな生物を評価できます。1リットルの海水からその有機成分へと濃縮し、そこからDNAを抽出すれば、そのサンプルの生物多様性について知ることができます。例えば、分子磁石として機能するPCRアッセイを設計し、特定の魚のDNAシーケンスにラッチすれば、海水中にどの魚がいたのかを調べることができます。生物種リストを作成し、さまざまな分類群の有無を調べ、特定の環境内の生物群とその相互作用の全体像を構築することができます。

eDNAは、発見が難しい生物の研究にも役立ちます。例えば、タツノオトシゴは海洋で最も見つけにくい魚の1つです。しかし、南アフリカやオーストラリアでは、海水中でそのDNAシグネチャーを検出することで、タツノオトシゴを発見できました。私たちはこの手法が、非常に優れたカモフラージュ能力を持ち、非破壊的な方法で調査するのが非常に難しい、これらの種や他の隠れた種の研究に革命をもたらすと考えています。

さらに、eDNAを使用して生態系全体を総合的に調べ、そこにいる生物種の健康状態や、相互の関連性を測る指標として活用できます。逆に、石油の流出や侵略的外来種の侵入などの大規模な汚染イベントが発生した場合、eDNAを使用してどのような種が影響を受けたかを検出し、その経験から学ぶことができます。

Q:eDNAを扱う際の一般的な課題は何ですか?

MB: 主な課題は、eDNAを使った研究は数のゲームであるという事実です。各サンプルは、わらの山でありそこには数本の針しか入っていません。1リットルの海水または1グラムの土を採取すると、通常、そのサンプルに含まれるDNAの99%以上が細菌によって占められます。特定のターゲットを選択的に濃縮する方法が必要です。もし海水中でサンゴ種を探している場合、アッセイが植物プランクトンと交差反応してしまうと、ほとんどが植物プランクトンで、サンゴはほとんど、または全く検出されません。そのため、効果的な(PCR)アッセイを設計し、目的のものをターゲットにし、特定のサンプルで検査したくないものを積極的に排除する必要があります。

また、調査中のDNAを濃縮するために、サンプリングアプローチを最適化する必要があります。魚の個体群を評価する場合、海底の堆積物サンプルと海水のどちらからより多くの魚のDNAを見つけることができるでしょう? その情報により、eDNAが隠されている生物学的基質のみをサンプリングすることが可能になります。私たちはサンゴの研究を完了したところです。海水には大量のサンゴのDNAが存在しますが、海底の堆積物にはほとんど存在しないことがわかりました。

もう一つの課題はDNAへのアクセスです。効率的なDNA抽出法を使用する必要があります。最適ではない方法を用いると、低い個体数の種を検出ができない可能性があります。

Q:環境サンプルにおける生物多様性を調査するために、どのようなNGS手法を使用していますか?

MB: 私たちは、ショットガンシーケンスとeDNAメタバーコーディングという2つのNGSアプローチを使用しています。

ショットガンシーケンシングは、十分なサンプル数がある場合には非常に効果的なアプローチです。例えば、バクテリアや植物プランクトンのような小さな真核生物を検出している場合です。しかし、海水サンプルでは、干し草の山が大きすぎるため、なかなか効率的なものとはなりません。

ほとんどの環境サンプルでは、eDNAメタバーコーディングを使用します。スーパーマーケットの商品と同じように、すべての生物には、それに関連する固有のバーコードがあります。この場合、それはDNAバーコードです。生物種間でDNAを比較すると、多くの保存領域があります。しかし、これらの高度に保存された領域の間には、種を区別し、分類群を特定するバーコードとして使用できる非常に変動性の高い領域があります。

種を区別したい場合、メタバーコーディングとターゲットアッセイを使用します。私たちはeDNAメタバーコーディングアプローチを、氷床コア、沼地の土壌、考古学的な遺跡、海水、糞便サンプル、および漢方薬に使用してきました。eDNAメタバーコーディングの応用は、多くの分野にわたります。

「アッセイの設計と実施にあたっては創意工夫が必要となり、研究しようとしている植物や動物に応じて調整する必要があります。」

Q:Tree of Life(ToL)メタバーコーディングとは何ですか?海洋生態系研究では、この手法をどのように使用しましたか?

MB: ToLメタバーコーディング手法の概念は、単一のアッセイでは環境サンプルの多様性を完全に明らかにすることはできないということです。最近の研究では、9リットルの水サンプルを1つ採集し、ショットガンシーケンス、バクテリアのメタゲノミクスアプローチ、バクテリア16Sシーケンス、および10の異なる分子アッセイで解析しました2。これらのアッセイの一部でサンゴが検出され、他のアッセイでは魚が検出されました。さまざまなアッセイの長所と短所を把握し、ショットガンシーケンシングとNGSメタバーコードディングを比較するために、1つのサンプルから得られる限りの情報を調べました。

すぐにわかったのは、少なくとも海水については、1つのアッセイでは生態系全体の多様性を把握できないということです。アッセイの設計と実施にあたっては創意工夫が必要となり、研究しようとしている植物や動物に応じて調整する必要があります。

Q:生態系の回復を研究するために、eDNAメタバーコードをどのように使用できますか?

MB: オーストラリアには、在来の生態系へと再生されつつある鉱山が数多くあります。通常は、その場所にかつてあった在来の木を植え、数年待ちます。その間、復元が正しく進んでいるかどうかはわかりません。

eDNAメタバーコーディングを使えば、以前そこに生息していたものや、そこに植えるべきものを評価できると考えています。生態系に元々生息していた昆虫や、花粉を運ぶ生物、バクテリアが戻ってきたかどうかを測定することができます3。eDNAメタバーコーディングを使用して、動物のフン、空気、水のサンプルを分析することで、どのような動物や昆虫が存在するかを調べることができます。このデータから、これらの環境に存在するさまざまな動物、植物、および昆虫の生物学的秩序を作成して、復元努力が有効かどうかを確認できます。

このような研究の主な課題の1つは、実験デザインを正しく行うことです。例えば、フンのサンプルを回収する場合、各サンプルを1つずつ分析することはありません。すべてのフンのサンプルを大きなブレンダーに入れ、すべて混合してDNAを抽出します。このプロセスは、時間とコストの効率を高めます。

「イルミナのNGSシステムは優れたシーケンス忠実度を提供します。このことはメタバーコードディングを用いて環境サンプルを解析する際に非常に重要です。」

Q:eDNAで判断できる内容に何か制限はありますか?

MB: サンプルから抽出するeDNAが、存在する生物の数と直接相関しているかどうか、つまり個体数を測定するために使用できるかどうかについては疑問があります。生物によってDNAの排出速度は異なるため、これが正確に相関することはありません。しかし、さまざまな領域における種の有無を調べることができ、十分なサンプルをレプリケートすれば、その存在/不在データを相対的個体数の測定に変換することができます。eDNAデータセットに基づき、できるだけ多くを推定することに焦点を当てた数多くの調査研究が進行中です。

eDNA解析のもう1つの制限は、DNAバーコードを高い忠実度で生物種に割り当てる能力は、ロバストなデータベースに依存していることです。世界中の研究者が、これらのデータベースの構築を進めています。

Q:eDNA手法の導入を希望する他の研究者に対し、どのようなアドバイスをしますか?

MB:eDNA手法はアプローチとして非常にシンプルに見えるかもしれません。実際には、うまく実施することは困難です。時間の経過とともに、サンプルの夾雑物が深刻な問題になる可能性があります。研究者には、生成されるデータの忠実度を維持するために、DNAを収集、保管、抽出する方法について、クリーンラボ環境で前もって調べることをお勧めします。例えば、私たちは研究の初期段階で、eDNAライブラリーを作成するための2ステップPCRアプローチが多数のアーティファクトを生成し、非常に夾雑物の影響を受けやすいことを学びました。

Q:現在の研究では、どのようなNGSシステムを使用していますか?

MB: イルミナのNGSシステムは優れたシーケンス忠実度を提供します。このことはメタバーコードディングを用いて環境サンプルを解析する際に非常に重要です。DNAバーコードが忠実にコピーされたという確信が必要です。私たちのラボでは、すべてのショットガンシーケンス作業(サンゴや魚のミトコンドリアゲノムなど)にNextSeq 550システムを使用しています。MiSeqシステムは、メタバーコーディングワークフローのアンプリコンシーケンスに使用され、1回のランあたりのコストは非常に手頃です。MiSeqシステムは、DNAセグメントを最大600塩基対の長さまで増幅できるため、私たちのToLメタバーコード研究に最適です。

先日、iSeq 100システムが納品されました。これはMiSeqシステムと同様の機能を備えていますが、より小型で携帯性に優れています。iSeq 100システムを使用して、ラボ環境外でDNAシーケンスを実行する方法をシミュレーションしています。iSeq 100システムにより、他のプラットフォームでは現在得られないシーケンスの忠実度を維持しながら、データを迅速に処理することができるようになります。

Q:eDNAデータをどのように解析しますか?

MB: メタバーコードのワークフローでDNAを増幅する場合、DNAバーコードの前面と背面に、ナンバープレートのようにインデックスを付加します。これにより、特定のサンプルにDNAリードを割り当てることができます。解析の前に、エラーやアーティファクトと思われるものを削除します。USEARCHやDADA2などのバイオインフォマティクスツールは、これらのアーティファクトを特定し、データセットから削除する上で役立ちます。私たちはデータを積極的にフィルタリングし、バックグラウンドノイズを低減します。データセットの「クリーニング」ができたら、BLASTのようなアライメントアルゴリズムを使用して、すべてのバーコードを参照データベースに照会します。すでに構築したGenBankやカスタムデータベースを使用することもできます。

eDNAの分野は、データ解析に関してはまだ発展途上にあります。データを大量に処理するには多くの方法があります。重要な点は、稀少な分類群の検出に必要な感度を維持しながら、真のパターンとバックグラウンド由来のアーティファクトとを区別することです。

「データを大量に処理するには多くの方法があります。重要な点は、稀少な分類群の検出に必要な感度を維持しながら、真のパターンとバックグラウンド由来のアーティファクトとを区別することです。」

Q:NGSによって可能になったeDNAの用途には、他にどのようなものがありますか?

MB: eDNAの潜在的な用途は、あまりにも多岐にわたり挙げきれないほどです。現在は、港湾のモニタリング、基礎的な生物多様性調査、バラスト水の検査、土壌検査、糞(食性)分析、発酵過程の動態解析、食品/医薬品の成分検出などが含まれます。このリストの項目は増え続けています。

Q:教授はeDNA Frontiersと呼ばれる商業ベンチャーを立ち上げようとされていますね。教授のeDNAメタバーコーディングアプローチは、クライアントをサポートするために、どのように使用されますか?

MB: いくつかの商業的eDNAサービスラボが登場しています。私たちのeDNA Frontiersのサービスは2019年に導入される予定で、過去10年間に当社が開発したワークフローの一部を使用した店頭モデルとなります4。当社のクライアントには、海洋システムまたは地上システムにおける計画承認の取得を目指す資源開発の企業や事業体が含まれます。

eDNAデータは、特定の場所における生物学的変化を経時的に監視するための保険のようなものとして使用できると考えています。例えば、事業を開始する前の現地における生態系はどのようなものかを知りたがっているクライアントもいます。eDNAは、その生態系の動植物に発生するポジティブまたはネガティブな変化を示すツールとして使用できます。その事業活動が環境に有害な影響を与える場合、それを早い段階で知ることができるため、その影響を低減できます。

当社はまた、企業がサンプルを提出し、それを10年間保管するeDNAバイオバンクも設立しています5。これらのサンプルは基準となり、データをより最近のサンプルと比較することで、環境の変化を示すことができます。

「eDNAを使用したバイオモニタリングは、環境保護を担う世界中の環境保護機関にとって重要なツールとなる可能性があります。」

Q:将来、eDNAはどのように使用され、研究されるとお考えですか?

MB: 偏見はあるかもしれませんが、eDNAは最も強力なバイオモニタリングツールの1つへと発展し、この分野の成熟とともにさらに役立つものになると思います。eDNAを使用したバイオモニタリングは、環境保護を担う世界中の環境保護機関にとって重要なツールとなる可能性があります。特定の区域で採掘や石油リグの設置を行いたい企業に対し、テストを提供できるでしょう。これらの企業は、サイトが開発される前に環境DNAサンプルを収集し、その後6~12カ月ごとにサンプルをバイオバンクに提出することが求められるかもしれません。石油の流出や侵略的外来種の突然の出現などの重大なインシデントが発生した場合、当局はこれらのeDNAサンプルを使用して、企業が環境に与えた影響を評価し、当事者に責任を問うことができます。データ自体が事実を示します。

Q:他にどのような活動に取り組んでいますか?

MB: 私たちのラボは、教育とコミュニティーの環境への関与に情熱を注いでいます。今ちょうど、Sequence Our Seas(SoS)と呼ばれるeDNAコミュニティサイエンスプロジェクトを立ち上げようとしています。学校の教室を訪問し、サンプルボトルを学生に配ります。学生たちは地元のビーチや水辺に行って1リットルの海水を汲み、教室で生物学的汚れをろ過します。次に、eDNAワークフローを使用してフィルターの内容を分析し、存在するすべての魚、鳥、哺乳類のリストを作成します。

このプロジェクトは、人々が、さまざまな人為的なプレッシャーにさらされている地元の海洋生態系の動植物の生態に関与するための手段を提供します。また、これにより、人々に遺伝学的リテラシーを教えることができ、私たちはそれが非常に重要だと感じています。

詳細はこちら:

環境DNAシーケンス

イルミナのNGSシステム

参考文献
  1. Willerslev E, Hansen AJ, Binladen J, et al. Diverse plant and animal genetic records from Holocene and Pleistocene sediments. Science. 2003; 300: 791−795.
  2. Stat M, Huggett MJ, Bernasconi R, et al. Ecosystem biomonitoring with eDNA: metabarcoding across the tree of life in a tropical marine environment. Sci Rep. 2017; 7(1):12240. doi: 10. 1038/s41598-017-12501-5.
  3. Fernandes, van der Heyde M, Bunce M, et al. DNA metabarcoding—a new approach to fauna monitoring in mine site restoration. Restor Ecol. 2018; doi.org/10.1111/rec.12868
  4. eDNA frontiers, Environmental DNA, Biomonitoring Solutions. https://scieng.curtin.edu.au/edna-frontiers. Accessed January 9, 2019.
  5. Jarman SN, Berry O, Bunce M. The value of environmental DNA biobanking for long-term biomonitoring. Nat Ecol Evol. 2018; 2:1192−1193.