ハイスループットジェノタイピング情報を用いた家畜の選抜育種
はじめに
ネブラスカ州リンカーンはアメリカの農業の中心地であり、アメリカ本土の地理的中心地から約150マイル離れた場所に位置しています。またここは、Neogen社の子会社GeneSeekの本拠地でもあります。GeneSeekでは、世界中の農業従事者のために1日当たり8000を超える家畜サンプルのジェノタイピングを請け負っています。GeneSeekのチームは、肉牛や乳牛、ヒツジ、ブタ、およびさまざまな穀物のジェノタイピングを実施しています。ジェノタイピングから得られるデータは、家畜の管理に必要なリソースを抑えながら、収率と栄養価を高める選抜育種の実践に役立っています。
Neogen/GeneSeekのBusiness Development and Marketing担当責任者であるJeremy Walker(理学修士)によると、2007年はGeneSeekのジェノタイピング生産性の転換点でした。「2007年、私たちはマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI/TOF)質量分析計で一塩基伸長法を用いて1日平均138,000のジェノタイプを収集していました。Infiniumカスタムアレイの発売を機にそちらに切り替えましたが、今では1日当たり2億を超えるジェノタイプを収集しています。」
iCommunityでは、育種集団におけるゲノムスクリーニングの価値、そして新たなカスタムアレイデザインの開発によってInfinium iSelect®アレイがもたらすメリットについて、お話を伺いました。
Jeremy Walkerは、Neogen/GeneSeekのBusiness Development and Marketing担当責任者です。
質問:ゲノミクステクノロジーを使い始めたのはいつ頃ですか?
Jeremy Walker(以下JW):私は大学院で初めてハイスループットのゲノミクスやゲノム情報に基づくのテクノロジーを使い始めました。2008年以降、Neogen/GeneSeekでは主に全ゲノム選抜に注力してきました。このテクノロジーは動物や植物の選抜育種で広く使用されています。
質問:この10年間でアグリゲノミクスの分野はどのように変化しましたか?
JW:最も興味深い変化の1つは、多数のジェノタイプをマーカーを用いて同時にスクリーニングできる低価格ハイスループットアレイの開発でした。ほんの10年前まで、選抜育種に関する決定を下す際にDNA検査の結果を用いていたのは、一握りの酪農家と家畜育種会社だけでした。彼らが実施していたのは、親子鑑定、そして黒/赤毛色に関するMC1R遺伝子座などの当時知られていた少数の原因バリアントの解析でした。
今では、ハイスループットアレイにより年間何十万もの乳牛のスクリーニングを実施することが可能になりました。ハイスループットアレイでは50,000近くのマーカーを評価することができるため、酪農家や育種家は50を超える異なる形質の遺伝的メリットに関するデータを得ることができます。
テクノロジーの進歩と低価格になった現在のアレイにより、酪農家や育種家は優れた動物を選択的に育種するためのまったく新しい知識を得ることができます。ハイスループットアレイから得られるデータにより、より短期間により少ない飼料でより多くのタンパク質を産生し、遺伝的異常が発生しにくい家畜を育てることが可能になります。
質問:アグリゲノミクスは何を目的としていますか?
JW:ゲノミクスは、生態系を破壊せずに農業のサステイナビリティ(持続性)を維持する上で重要な手段です。ゲノミクスの発展は、食の安全の向上と密接に関連しています。世界的な人口の増加により、より高品質のタンパク質と食品が求められています。その一方で、耕作可能な土地は減ってきています。ジェノタイピングの1つの目標は、資源の消費を抑えながらより多くのより高品質な食物を開発することをサポートすることで、効率を高めてこのギャップを埋めることです。Neogenは、この目標を念頭において年間200万を超える動物のジェノタイピングを実施しています。
質問:育種集団をスクリーニングすることの利点を教えてください。
JW:ゲノム情報に基づいて育種集団をスクリーニングすることで、従来の育種価と比べると遺伝獲得量が増えます。これは、最良の乳牛の雄牛を選抜するのに有用な娘牛妊娠率など、遺伝しにくい形質の遺伝的改良を促進することが目的の場合に特に重要です。その結果、動物育種家は利益率を高め、遺伝子疾患を回避することができます。
質問:アグリゲノミクスの成長を支えているのはどのようなテクノロジーですか?
JW:低コストでハイスループットかつ高容量の次世代シーケンス(NGS)テクノロジーにより、植物および動物のDNAシーケンスデータ量が増えました。このデータから、大量で安価な遺伝的変異の集団スクリーニングを支える、固定予測マーカー搭載高品質アレイの開発のための情報が得られました。イルミナのInfinium XTベースのテクノロジーなど、低コストでハイスループットの固定マーカー搭載アレイは、アグリゲノミクスと育種形質のゲノムスクリーニングの成功に貢献しています。
質問:カスタムジェノタイピングアレイの開発で特定の家畜種に注目したのはなぜですか?
JW:私たちは、家畜のためのGeneSeek Genomic Profiler(GGP)カスタムアレイを作製しました。家畜の品種改良にはこの全ゲノム選抜テクノロジーを使用しています1-3。現在、このアレイには乳牛や肉牛、ブタ、およびヒツジが含まれています。
私たちが重視しているのは、このアレイ製品を改良し続けることです。私たちは自分たちのGGPアレイのインピュテーション精度を高める方法を常に探し求めています。また、業界や学界のリーダーたちと連携して、何百もの形質に測定可能な影響を与えることが証明されている新しい原因バリアントを特定し、アレイに含めることにも取り組んでいます。
質問:ゲノム選抜におけるインピュテーション精度の重要性について教えてください。
JW:ゲノム予測は遺伝学の進歩に良い影響を及ぼし、ゲノム予測の精度は進歩の速度を左右します。表現型データの強度、リファレンス集団のサイズ、および血統構造に関する情報など、さまざまな要因が精度に影響を与えます。しかしながら、インピュテーションの精度は低価格の低密度アレイを使用する際に重要になります。
質問:アレイ開発の基礎としてInfinium Custom iSelectテクノロジーを選んだのはなぜですか?
JW:Neogen/GeneSeekでは、カスタムアレイ製品のほとんどでInfiniumカスタムアレイを使用しています。私たちが選んだ理由は、テクノロジーの堅牢性とプラットフォームのコスト効率です。あらゆる組織タイプで平均コールレートは99.3%を上回り、異なるバッチ間のレプリケートのジェノタイピングは一致率99.9%を達成しています。さらに、提出したデザインから製造されたチップまで、高いアッセイコンバージョン率を達成しており、プラットフォームのハイスループット能力を活かしています。
質問:アレイデザインと解析を最適化するためにどのようなツールを使用していますか?
JW:私たちは一塩基多型(SNP)チップを最適にデザインし、大量データ解析を実施するために、最先端の方法とツールを開発しました。その1つの例が、ジェノタイプインピュテーションとゲノム選抜のために最適なSNPを選抜するためのmultiple-objective, local-optimization(MOLO)です。また全ゲノムSNP効果を推定するためにコスト効率の高いデータ並列法も開発しました。これらの解析ツールにより、動物種や植物種を対象とした信頼性の高いハイスループットゲノム予測システムを構築することが容易になりました。
質問:マイクロアレイ解析はGenotyping by Sequencing(GBS)と比較してどうですか?
JW:固定マーカー搭載のInfiniumアレイは、この10年間、私たちの製品ラインにおいて非常に重要な位置を占めてきました。私たちは、マーカーを用いた選抜や全ゲノム選抜に関心のあるお客様に正確で堅牢かつ低コストのデータを提供するために、GBSを含めた新しいテクノロジーを評価し続けていきます。私たちの大量のデータパイプラインにとって、まだInfiniumケミストリーを超えるツールには出会っていません。GBSについては、私たちにとってInfiniumケミストリーに比べて限定的ではあるものの、重要な役割を果たしていると考えており、これからも評価を続けていきます。
質問:GeneSeek Genomic Profile(GPP)アレイを用いてどのようなアグリゲノミクスの発見がありましたか?
JW:私たちが得たゲノム情報でお客さまが何をしているかを、必ずしも把握しているわけではありません。私たちはアカデミアで実施されている多数のゲノムワイド関連解析(GWAS)に関与しています。私たちは、GPPアレイユーザーであるお客様による育種選抜の意思決定を支援するために、ウシやブタの多くのカスタムアレイデータで得られた発見を付加価値のあるマーカーとして提供することが多くあります。
より広い意味で、Neogen/GeneSeekにおいて私たちが行っていることが、さまざまな先端研究のきっかけになると信じています。植物や動物のゲノム研究は、多くの場合、厳しい予算の制約内で行われます。そのため、研究者たちは私たちが提供するコスト効率の高い技術的専門知識に頼らなければならないのです。私たちがより安価で提供できる植物や動物のゲノムデータが増え続けることにより、これからもアグリゲノミクスの研究や発見がもたらされると私は考えています。
このインタビューに登場するイルミナの製品についての詳細は、以下のリンクからご覧いただけます:
Infinium Agrigenomics BeadChipsはこちら www.illumina.com/content/dam/illumina-marketing/documents/applications/agrigenomics/information-sheet-array-consortia-agrigenomics-web.pdf
Infinium XT BeadChipはこちら https://jp.illumina.com/products/by-type/microarray-kits/infinium-xt.html?langsel=/jp/
Infinium iSelect Custom Genotyping BeadChipsはこちら https://jp.illumina.com/products/by-type/microarray-kits/infinium-iselect-custom-genotyping.html
参考文献
- Neogen launches GGP Bovine 50K for beef seedstock.Neogen. www.neogen.com/en/neogen-launches-ggp-bovine-50k-for-beef-seedstock.February 1, 2017.Accessed on March 22, 2017.
- New cost-effective DNA test available to beef seedstock industry.Neogen. www.neogen.com/en/new-cost-effective-dna-test-available-to-beef-seedstock-industry.October 6, 2016.Accessed on March 22, 2017.
- Neogen selected by Scottish Gov’t for beef herd improvement program.Neogen. www.neogen.com/en/neogen-selected-by-scottish-govt-for-beef-herd-improvement-program.October 27, 2016.Accessed on March 22, 2017.