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マイクロバイオーム研究の時代の到来

全ゲノムショットガンシーケンスとトランスクリプトミクスからは、研究者や製薬会社が創薬を精密化するためのデータを得ることができます。

マイクロバイオーム研究の時代の到来

マイクロバイオーム研究の時代の到来

はじめに

Joseph Petrosino博士(PhD)は、1993年にベイラー医科大学に来て以来、一度ならず三度も、自分がふさわしい時にふさわしい場所にいることに気付きました。そのたびに、博士はマイクロバイオーム研究の学界から産業界への移行開始とその後の研究の拡大に欠くことのできない存在となることに一歩ずつ近づいていきました。

まず、コモンファンドのヒトマイクロバイオームプロジェクト(HMP)が発表されたとき、博士はベイラー医科大学のヒトゲノムシーケンスセンターに所属していました。このプロジェクトはヒトゲノム研究所(NHGRI)のイニシアチブであったため、ゲノムセンターが発進段階の陣頭指揮を執りました。ヒトゲノムシーケンスセンターのRichard Gibbs所長は、Petrosino博士にベイラーでイニシアチブを立ち上げてセンターをサポートして欲しいと頼み、細菌ゲノミクスのバックグラウンドを持つPetrosino博士は、「次世代ゲノミクスプラットフォームを利用して、あらゆる種類のサンプルから培養不要で微生物の個体数調査や機能的能力についての情報を提供するということに非常に興味をそそられました。」と述べました。

2010年にHMPの取り組みが終わりに近づいた頃、Petrosino博士はトランスレーショナルマイクロバイオーム研究センターの設立というアイデアを大学側に持ちかけました。その目的は、過去のゲノミクスと発見に基づくパイプラインを宿主と微生物の関係の精査、特に微生物群の機能をまた疾患に関連付けることへと発展させることでした。メタゲノミクスマイクロバイオーム研究センター(CMMR)はその一年後、Petrosino博士が所長となって設立されました。

まもなくCMMRは複数の製薬会社からマイクロバイオームプロジェクトでのサポート要請を受けるようになりました。商業プロジェクトで求められる厳しい納期に対応するため、ベイラーでは2015年にDiversigenというマイクロバイオームサービス会社を設立しました。Petrosino博士はこの会社の最高科学責任者(CSO)として、自分の時間の約10%をDiversigenのプロジェクトの人員として、残りの90%をCMMRのリーダーとして費やしました。

Petrosino博士は、「CMMRはDiversigenの活動から恩恵を受けており、営利団体であるDiversigenにより、CMMRチームはその知識を新しい治療法や診断法の開発の最前線にいる人々に伝えられるようになりました。その結果、CMMRの学術的発見から利益をもたらす製品の開発が加速しました。」と述べています。最近、Diversigenは、マイクロバイオーム解析の包括的サービス構築のため、Orasure Technologiesに買収されました。

iCommunityは、マイクロバイオーム研究の価値、研究デザイン戦略やNGSの使用が、ここ10年間でどのように進化したのか、そして今後起こることについて、Petrosino博士にお話を伺いました。

Joseph Petrosino博士は、CMMRの所長であり、DiversigenのCSOです。

質問:ヒトマイクロバイオームプロジェクトの当初のビジョンについて教えてください。

Joseph Petrosino(以下、JP):当時、世界中に共生生物の研究をしている研究者や、マイクロバイオーム研究のために次世代シーケンス(NGS)テクノロジーを導入し始めた研究者がたくさんいました。NIHでは、マイクロバイオームが多数の疾患分野に影響を及ぼしうること、そしてそれが多数のNIH機関に影響を及ぼすことを認識していました。また、どのツールがマイクロバイオーム研究に最適で、何を目的にするかという、方法、戦略、ベストプラクティスを開発する必要性があることも把握していました。HMPの取り組みは、データ収集、ベストプラクティスや方法の理解、および研究者が各自の研究プログラム構築に使用できる参照データセットやプロトコールの開発という点で、ヒトゲノムプロジェクトと非常に似ていました。

質問:HMPプロトコールの準備ではどのようなことを学びましたか?

JP:HMPでは、ベイラー医科大学とセントルイスワシントン大学という2つの臨床試験中核拠点からの被験者300名のコホートを構築することに重点的に取り組みました。臨床側での被験者募集要項の作成に多くの時間を費やしました。300名の被験者は、12カ月で3回まで、最高18カ所の身体部位からサンプル採取されることになっていました。

方法論的見地から、収集した多種多様なサンプルで使える最適な抽出法を複数特定しました。これらのプロトコールを基準に従って評価し、検証する方法を理解することは、私たちが当初考えていたより緻密かつ綿密な作業でした。この300名の被験者から得た最初の知見は、生物多様性は個人間で異なるものの、機能的要素は体の各部位で保存されている、ということでした。

質問:Diversigenの設立理由を教えてください。

JP:メタゲノミクスマイクロバイオーム研究センターは、医療センターという環境下でトランスレーショナルな学術研究を実施するために設立されました。しかしながら、いくつかの製薬会社の商業チームがマイクロバイオームプロジェクトを持ちかけてきました。彼らは学術研究を支援してくれましたが、大学院1年生が彼らのプロジェクトに従事していることなどに対して不満だったようです。彼らの希望は、データセットのトラブルシューティングや解析ができる経験豊富な研究者によりプロジェクトをより厳しいスケジュールで完了させることだったのです。Diversigenは、マイクロバイオーム研究に関する営利団体のニーズに応えるために2015年に設立されました。

センターの設立時、私は製薬会社がどのようにマイクロバイオームに注目しているのかを知るために、マイクロバイオームサービス会社を設立する可能性があることを言及しました。研究者として、自分の分野では自分たちが一番理解しており、公衆衛生に最も役立つにはどの分野が成長すべきなのかを知っていると思いたいのです。しかしながら、製薬会社の立場からは、考え方が大きく異なっているのかもしれません。Diversigenのおかげで私たちは製薬会社側の考えを知ることができ、マイクロバイオームについての考え方が変わりました。Diversigenは、最初から利益を上げ続けています。

「NovaSeq 6000システムのマルチプレックス能力により、私たちは非常に助けられています。さらに多くのアプリケーションでNovaSeqを使い続けていく予定です。」

質問:Diversigenの特別な点を教えてください。

JP:Diversigenは、法人顧客、特に製薬会社やバイオテクノロジー関連会社にマイクロバイオームサービスを提供する最高のプロバイダーであると自負しています。大学のラボはほとんどDiversigenの研究開発部の一部であると考えることができるため、Diversigenでは現場で使用されている最新のアプリケーションを提供し、学術的に得られものと遜色のないデータを提供するための戦略を練ることができます。そのためDiversigenでは大規模な社内解析チームを結成して、このチームが営利目的の研究に最適な独自のベストプラクティスを開発しました。

このDiversigenチームは、構想段階から結果や、さらにその先まで顧客と関わり合います。私たちは、研究デザインに協力し、サンプルの収集、保管、発送方法についてアドバイスを提供し、顧客が求める答えを得るのに最適なシーケンス方法をお勧めします。

マイクロバイオーム業界で大きな成長を遂げており、その多くが学術界から来たばかりのマイクロバイオーム専門家により設立されています。これらの会社の多く、特に製薬業界の会社の多くは、社内にマイクロバイオーム分析専門家がいませんでした。私たちは、世界中の200名を超える共同研究者と共に400を超える学術プロジェクトに携わったことで、さまざまな疾患とそれらにおけるマイクロバイオームの潜在的な役割に関する重要な見識を得ました。これらの会社は、次に進む方向や潜在的な下流アプリケーションに関するフィードバック、アドバイス、コンサルティングの提供でDiversigenチームを頼りにしています。

質問:Diversigenのプロジェクトの平均サンプル数はどのくらいですか?

JP:昔は5~20サンプルの研究を実施していました。現在、ほとんどのプロジェクトでは百単位のサンプルを取り扱っており、千単位のプロジェクトもあります。私たちは、長期的にサンプリングする大規模コホートを用いたプロジェクトを管理する方法についてベストプラクティスを確立しました。そのベストプラクティスには、データ内の交絡因子であるノイズを低減しながら最大限の効率を得られるようなサンプルの収集、保管、バッチの方法が含まれています。

質問:製薬分野の顧客と臨床試験を実施していますか?

JP:私たちが初めて製薬会社と協業し始めたとき、Clinical Laboratory Improvement Amendments(CLIA、臨床検査室改善修正法)とCollege of American Pathologists(CAP、米国病理医協会)により認定されたパイプラインの開発に着手しました。製薬会社の顧客には、私たちが得るデータが高品質かつ有効で再現性があり、規制申請用に最適であると安心してもらいたかったのです。

私たちの製薬会社パートナーのいくつかは臨床試験段階に入っており、私たちは一部の試験のためにシーケンスや分析を実施しています。複数年のプロジェクトも多くあり、そこでは得られるデータから可能な限り多くの情報を抽出できるように追加のベストプラクティスが採用されています。

質問:一般的に受け取るサンプルの種類やサイズについて教えてください。

JP:マイクロバイオーム分野で多いサンプルの種類はいまだに糞便です。安定化試薬の出現により、サンプル安定性を維持するためにサンプルを冷蔵発送する必要がなくなり、色々なことが簡単になりました。

もちろん、生物量の少ない理想的ではないサンプルを受け取るプロジェクトも多いです。私たちにはHMPプロトコールの構築における専門知識があるため、そのような難しい種類のサンプルのプロトコールの開発と検証を行うチームをすでに確立しています。私たちの目的は、どんなに少量であっても受け取ったあらゆる種類のサンプルから意義のあるデータを得ることです。

「私たちのターンアラウンドタイムは週単位ではなく日単位です。イルミナのNGSシステムにより、プロジェクトの予定を事前に決めて、シーケンサーが常時稼働しているようにすることが可能になりました。」

質問:Diversigenプロジェクトではどのようなシーケンスを行いますか?

JP:解析対象の生物群集に合わせて、16S遺伝子内の複数の可変領域で16Sシーケンスを実施します。特定の可変領域からは、口腔内、皮膚、糞便など特定の種類の群集に関する詳細な結果が得られます。

真菌や真核生物では内部転写スペーサー2(ITS2)シーケンス、微小真核生物では18Sシーケンスを実施します。メタゲノム解析、微生物群の菌株、種レベルや機能レベルの測定では全ゲノムショットガンシーケンスを使います。ロングリードシーケンスも実施します。課題やアプリケーションに応じて、単一菌種シーケンスの高品質なシーケンスを提供するために、ロングリードとショートリードを併用することもあります。これは昔と同じですが、今では短時間になり、コストが削減されています。

トランスクリプトームやメタトランスクリプトームのパイプラインがありますが、これらについては方法論的観点や分析的観点から改善し続けています。ウイルスメタゲノミクスも私たちの重要な業務の一つです。私たちは、ウイルスメタゲノムサンプルを臨床的観点から解析できる能力を強化することに多大な時間を費やしてきました。これらのサンプルの中にはほとんどないくらいに少量のものもあり、従来のウイルス研究ラボでやっているようなウイルスをスピンダウンして遠心沈降グラジエントで精製する方法は不可能であり、拡張性もありません。サンプルの取扱いについては、これらの難しいサンプルからできる限り多くのウイルス情報を得るための分析法を用いる「less is more」(少ない方がよい)アプローチを採用しています。

質問:ここ5年間で研究デザイン戦略やNGSの使用はどのように進化しましたか?

JP:初期のマイクロバイオーム研究では、例えばHMPのとき、特定のコホートについて長期的ではなく横断的な解析を実施するために、他の目的のために収集されたサンプルを利用することも少なくありませんでした。  サンプルはマイクロバイオーム解析に適切な形で収集や保管がされていなかった可能性があり、その後私たちは、単一時点の解析では、ある微生物群で起こっていることの全体像が得られるとは限らないということを学びました。現在、特定の疾患の症例とコントロールをよく一致させて使用し、健康や疾患と微生物との関係の根底にある作用機序を詳細に分析するために前臨床モデルを採用するプロジェクトが増えています。

また、企業では16Sシーケンスの限界を認識し、マイクロバイオームを用いる研究に対する予算を追加しているため、存在する微生物群をより詳細に研究するための機能的遺伝子経路と菌種に関する情報を取得するために全ゲノムショットガンシーケンスにシフトしていることが認められます。同様に、トランスクリプトミクスの増加もみられています。これによりサンプルが収集された特定の時点においてどの遺伝子が活性化されているかを評価できるようになります。

「一般的なマイクロバイオームプロジェクトの規模を考えると、NovaSeq 6000システムの処理能力はこれからも長い間私たちの会社を存続させていってくれるでしょう。」

質問:メタゲノミクスやトランスクリプトミクスのデータから疾患について分かることを教えてください。

JP:メタゲノミクスとメタトランスクリプトミクスにより、健康な個人にはどのような微生物や機能が存在し、特定の疾患と関連し、どのように疾患と関連しているのかを見つけ出すことができます。長期的に収集されたサンプルを用いれば、データを疾患の発症や増悪と関連付けることができます。特にトランスクリプトミクスでは、遺伝子発現が特定の疾患や増悪状態と関連しているかどうかを評価することができます。

質問:メタゲノム研究やトランスクリプトーム研究のデータからは、治療法や診断法の開発の標的が得られますか?

JP:はい。オミクスベースのアプローチでは標的発見が可能であることを知っておくことが重要です。オミクスベースの違いがなぜ存在し、それが疾患自体にどのように影響を及ぼすのかを理解するには、機構研究や機能研究に立ち戻り、前臨床モデルを作成または利用する必要があることが分かりました。これらの研究のデータからは、治療や診断の候補薬物の開発推進の決定を下す際の情報が得られ、ある候補薬物がマイクロバイオームに影響を及ぼしているかどうかについての情報が得られます。

質問:2015年以降、顧客基盤はどのくらい拡大しましたか?

JP:私たちの顧客基盤は飛躍的に拡大しており、減速する兆しは見られません。マイクロバイオームベースの治療薬を作り、推進している会社の数は爆発的に増えています。製薬会社もファーマコマイクロバイオミクス、つまりマイクロバイオームにより薬剤がどのように代謝されるかの研究を実施しています。そして化学物質ベースの薬剤の開発者までもが、マイクロバイオームによる薬剤修飾の有無に関心を寄せています。

質問:お使いのイルミナNGSシステムを教えてください。

JP:iSeq™ 100システムは1台、MiSeq™ システムは2台、NextSeq™ 500システムは1台、iSeq™ 3000システムは1台、NovaSeq™ 6000システムは1台あります。私たちのラボの視点から言えば、これらのシステムを大変気に入っており、これらのシステムから高い柔軟性が得られています。

プロジェクトのリード長、データ、およびマルチプレックス要件が、どのパイプラインを使用するかを決定します。品質管理と新しいプロトコールの検証にはiSeq 100システムを使っています。このシステムは、短いターンアラウンドタイムでファージゲノムシーケンスや小ゲノムシーケンスのプロジェクトを実施できるコスト効率の高いツールでもあります。アンプリコンベースのシーケンスにはMiSeqシステムを使用しています。NextSeq 500システム、HiSeq 3000システム、およびNovaSeq 6000システムは、RNA-Seqとメタゲノムシーケンスの実施に使用されています。シーケンスライブラリーの構築に役立てるためにさまざまなロボットハンドラーやEcho装置の検証も行いました。

質問:博士の研究におけるNovaSeq 6000システムの性能はいかがでしたか?

JP:NovaSeq 6000システムは最近追加したもので、さまざまなフローセルによりプロジェクトで使用するシーケンスの種類に柔軟性が得られています。良好に稼働しており、今こうしている間にも新しいバーコードが追加されています。NovaSeq 6000システムのマルチプレックス能力により、私たちは非常に助けられています。さらに多くのアプリケーションでNovaSeqを使い続けていく予定です。私たちの保有シーケンサーに追加できたのは素晴らしいことでした。

「品質管理と新しいプロトコールの検証にはiSeq 100システムを使っています。このシステムは、短いターンアラウンドタイムでファージゲノムシーケンスや小ゲノムシーケンスのプロジェクトを実施できるコスト効率の高いツールでもあります。」

質問:シーケンス効率は重要ですか?

JP:効率はDiversigenの成功にとって絶対に欠かせないものです。Diversigenには、サンプル採取から一次解析までに携わる12~17名からなる少人数の経験豊富なチームがいます。私たちのターンアラウンドタイムは週単位ではなく日単位です。イルミナのNGSシステムにより、プロジェクトの予定を事前に決めて、シーケンサーが常時稼働しているようにすることが可能になりました。

質問:CMMRとDiversigenでの今後5年間の目標を教えてください。

JP:引き続き拡大していきたいと思っており、いくつかのCMMRプロジェクトに関しては知的財産(IP)の開発に興味があります。CMMRでは、数ある中でも特にがん免疫療法や社会不安障害のプロジェクトに関与しており、複数の臨床試験を実施しました。ベイラーとDiversigenとのパートナーシップを通じて、診断法や治療法の開発で使える他の候補薬物を明らかにするために有用なコホートの構築に、これらの初期の知見を適用できる方法を特定したいと思っています。Diversigenでも、開発した技術や分析法を用いてさらにIP重視の環境を作っていきたいと考えています。

質問:NGSシーケンスシステムとイルミナシーケンスシステムはDiversigenの今後のマイクロバイオーム研究にどのような影響を与えると思いますか?

JP:短期的には、アンプリコンシーケンスが微生物群のプロファイリングに優れた方法です。16Sシーケンスから全ゲノムショットガンシーケンスへの移行は、シーケンスコストの低下、マルチプレックスや分析法構築の技術の向上、そして微生物群の効果的なプロファイリングのためのバイオマーカーの発見に伴いこれからも続いていくでしょう。

一般的なマイクロバイオームプロジェクトの規模を考えると、NovaSeq 6000システムの処理能力はこれからも長い間私たちの会社を存続させていってくれるでしょう。事業の拡大に伴い、最適なターンアラウンドタイムに対応できる速度でプロジェクトのマルチプレックスを継続できるように2台目が必要になってくるかもしれません。

このインタビューに登場するイルミナの製品やシステムについての詳細は、以下のリンクからご覧いただけます:

NovaSeq 6000システムについては、jp.illumina.com/systems/sequencing-platforms/novaseq.html

iSeq 100システムについては、jp.illumina.com/systems/sequencing-platforms/iseq.html

NextSeq 500システムについては、* jp.illumina.com/systems/sequencing-platforms/nextseq.html

MiSeqシステムについては、jp.illumina.com/systems/sequencing-platforms/miseq.html

* NextSeq 500システムはNextSeq 550システムへとアップデートされました。